“ありのまま”を未来に遺す「百の物語」に出会う宿
2021年8月に開業したBYAKU Narai(以下、BYAKU)は、歴史ある建造物が立ち並ぶ長野県の奈良井宿にある。約220年間続いた酒蔵と、近年は民宿として栄えた「曲物」職人の旧住居の2棟を改修して作られたレストランやバー、ギャラリーを併設する宿である。12室ある客室は全て間取りも雰囲気も異なり、唯一無二の特別な空間が広がる。中山道六十九次のちょうど真ん中に位置し、日本最長の宿場町として今も当時の面影を色濃く残す奈良井宿において、BYAKUとはどのような存在なのだろうか。支配人の高山京平氏に話を伺った。
取材・執筆/立教大学観光学部 菅野陽菜 設楽未来 監修/宿屋大学 代表 近藤寛和
高山京平氏
BYAKU Narai 「歳吉屋」のエントランス
地域に眠る百の物語に触れる宿
----BYAKUのコンセプトについて教えてください
百の体験をお客様にお伝えする、それがこの宿の一番のコンセプトです。BYAKUに滞在することで、奈良井宿ひいてはこの木曽エリアでの「ここでしかできない体験」を味わっていただきたいと思っています。例えば、日が落ちた後の街の静けさ、澄み切った空気、夜空に浮かぶ星々。BYAKUを通して奈良井宿で過ごしていただく時間の中で、自然と体験し肌で感じられるものを「物語」と呼んでいます。
今の奈良井宿には宿泊施設があまりに少なく、さらにそのほとんどが家族経営の小規模な宿です。そんな中で、弊社の代表が「奈良井宿は日本の宝だ。ここをもっと多くの人に知ってもらい、この先も日本に遺していかねばならない」と感じたことがBYAKUのはじまりです。だからといって僕たちが、この歴史ある宿場町を思いのままに変革しようなんて考えはありません。あくまでもこの街の主役はここに住む人たちで、僕たちは人と街をつなぐ「きっかけ」になりたいのです。
奈良井宿の歴史ある街並み
内装には古民家らしい落ち着きがある