高度成長期のスタイルから脱却しなければ未来につながる日本酒造りはできない
島田 萬乗醸造の歩みを教えてください。
久野 私の父親の代の萬乗醸造は、高度経済成長期の時代背景に基づいた仕事のやり方を進めていて、生産量は現在の4倍ありました。パック酒や下請けの酒造りというジャンルで商売をするスタイルだったのです。
そのスタイルの酒造りのおかげで私は育ててもらったわけですが、自分でその酒を飲んでみると残念ながらおいしいと感じることはできませんでした。自分が酒蔵に戻り、現実に直面したとき、この酒造りのスタイルからの脱却を図らなければ日本酒に未来はないと思いました。
反対に日本酒に光を見出すことができたのは、他の酒蔵が造っている純米吟醸酒や純米大吟醸酒を飲んでとてもおいしいと感じた体験です。私はシンプルにそこに向かっていこうと決めて、さまざまなものを刷新していきました。特定名称酒をほとんど造っていないところからスタートして、純米吟醸酒、純米大吟醸酒に向かっていく中で、「醸し人九平次」という新しいブランドを立ち上げました。
島田 平成に入って酒蔵の方向性を大きく変えたのですね。