料理とのペアリングがうまくいけば「もう1本」という流れが生まれる
島田 日本酒専用グラスを使ったレクチャーは、海外でも展開していますか。
アンギャル 世界各地でレクチャーを開催していますが、『大吟醸』グラスと『純米』グラスで比較ができるようになったことでとても伝えやすくなりました。
直近の事例としては台湾で日本酒とのペアリングを行ないました。60 皿の台湾料理に4種類の日本酒、4種類のワインを合わせて評価してもらったところ、すべての料理とのペアリングにおいて日本酒が勝ちました。
日本酒を世界に広めるために、私はニつの方法があると考えています。その一つがペアリングであり、取り組みにあたってはワインに勝つことを目標にするべきだと思います。
ワインは世界的に飲料の王様としてのポジションを築いています。それでも合わせる料理によっては日本酒の方が合うペアリングが必ずあるはずですから、その組み合わせを探すことで日本酒の存在感を高めていけるはずです。
料理とのペアリングが合えば人はたくさん飲みますから、「もう1本」という流れが生まれるわけです。ワインのように「もう1本」という注文は日本ではほとんどないと思いますが、ペアリングの取り組み方次第ではそういったスタイルを創造することもできるでしょう。
島田 日本酒とのペアリングをテーマにした取り組みは、ヨーロッパでは行なわないのですか。
アンギャル ヨーロッパはワインが競合相手なのでなかなか厳しいですね。ヨーロッパの人たちは、料理にワインを合わせることに慣れています。例えばワインも日本酒もはじめて飲む人にどちらがチーズに合うかを聞けば、日本酒を選ぶはずです。ただ、ワインを飲む人たちはチーズの油分を口の中から洗い流す、そういった飲み方に慣れているのです。日本酒のように、チーズの旨味を引き立てるサポーターのような役割になじむまでには時間が掛かります。
料理の旨味を引き立てるという価値を広めていくためにも、ペアリングがキーポイントになるのは間違いありません。
島田 ペアリングとともに、日本酒を世界に広めるために必要なもう一つの方法とは何ですか。
アンギャル 伝統的な和食と日本酒をセットにして、陶器など日本の伝統的なやり方をそのまま生かした文化のパッケージを海外でも楽しんでもらうことです。海外の人たちは日本の文化をリスペクトしていて、間違ったやり方をしたくないと思っているからです。
ただ難しさもあって、例えばフランスのテーブルクロスが敷かれた食事のシーンでは、日本の伝統的な器では負けてしまう。その壁を乗り越えるためには相当な時間を要するでしょう。