日本酒は大切な日本文化の一つでありおいそれと踏み込んではいけない世界
島田 リーデルが日本酒の専用グラスを開発するまでのストーリーを教えてください。
アンギャル 50年前に日本進出したリーデルはグラスによって味と香りが変わることについて、ワインのテイスティングを通じて豊富な経験と知識を蓄積してきました。そして日本酒専用グラスとして、2000年に大吟醸グラスを、2018年に純米グラスを発売しています。
1997年に金沢の蔵元、福光屋から「日本酒グラスを創ってみたらどうか」と提案があったのですが、最初はお断りしました。日本酒は大切な日本文化の一つであり、私たちは日本酒について何も知らなかったからです。日本酒の世界に経験も知識もないリーデルがおいそれと踏み込んではいけないと思ったのです。
ただその後も完全に話が流れてしまうことはなく、四つのタイプがある日本酒の香りにどのようなグラスが合うのかについて45社の蔵元とワークショップを開く機会を私たちは持ちました。プロトタイプ( 試作品 )を含む100種類以上のグラスをそろえ、60種類、37種類、12種類と絞り込んでいきました。最終的に6種類のグラス形状を選び、リーデルの母国、オーストリア大使館で大吟醸グラスを創ることを決定しました。
2010年には「大吟醸グラスだけでなく、純米グラスも創ってもらえないか」という提案があり、私たちは開発プロジェクトに乗り出しました。ただそのときは、純米酒の選び方を間違えてしまいました。当時の日本酒マーケットは吟醸の方向性で酒造りをするのがトレンドだったため、純米酒の特徴を強く引き出した酒ではなく、吟醸寄りのフローラルフルーティーな酒を選んでしまったのです。蔵元の意見が真っ二つに分かれてしまったこともあり、そこで一度プロジェクトをストップさせました。
島田 本来の純米酒の特徴に合わせるべきか、当時の純米酒のトレンドに合わせるべきかでニつのグループに分かれてしまったのですね。
アンギャル 2016 年になると、多くのシェフがメニューに日本酒を載せるようになりました。日本酒の方向性もだいぶ変わってきたことを背景に私たちは純米グラスのプロジェクトを再開、170社の蔵元と方向性を決めて新たなプロトタイプを創りました。そして名古屋と東京でグラステイスティングとワークショップを行ないました。かなり大変なプロセスを経て、ようやく純米グラスをセレクションすることができました。