結果はラッキーパンチではない。スタッフたちに目に見える目標を課し、それが結果につながる独自のマネジメントを構築
― 結果だけを言葉にしてしまうと簡単に聞こえますが、決してそれはなんとなくやって運が良かったというわけではないですよね。実は本郷支配人はそれが上手に回るようなマネジメントを構築されてきました。最も興味深かったのは、御社の中で皆さまが共有されている「18 のベンチマーク」です。
顧客満足度を上げるために「クチコミ評点」などを日々意識させる環境をつくるほか、「事前ノーミス率」や「朝食おまたせ率」など、顧客満足度に関わる部分を現場サイドでどのように努力をすれば改善できるかを可視化し、皆でそこに向き合えるようになるなどされています。
現場のスタッフに、「稼働率が低い」、「ADR を上げろ」なんて言っても皆何をしたら良いかわかりません。そのために、それぞれがホテルの目標に近づくために具体的に何ができるかを主目的に設定したのが「18 のベンチマーク」です。会議や朝礼などで各数字を共有し、スタッフの努力を促しています。
例えば、DOR(Double OccupancyRate:1 室あたりの滞在人数)や連泊係数を意識させれば、スタッフがチェックインやチェックアウト時に「次回はご家族の皆さまでお越しください」や、「次回はお孫さんもお連れください」といった言葉や、「次回は是非春にお越しください。春の金沢は見どころが多いですから、二泊くらいされるとゆっくり楽しんでいただけますよ」とおすすめをするようになります。また、リピート利用を目的に「サンクスレター送付率」というのもあり、初めていらっしゃったお客さまを中心にスタッフの手書きメッセージを添えたお葉書をお送りするのです。
― スタッフが努力可能な点を可視化することで、スタッフが主体的に努力をするようになる。非常に戦略的です。
売り上げに関わる部分だけではありません。コスト部分も意識をしており、全部で7 項目あります。例えば、その中にあるブリッケージ金額は、洗い場のスタッフが食器やグラスを洗う際に意識をするようになってコストが下がると同時に、ブリッケージの発見率が上がり、お客さまにチップのある食器を出す率が減ります。
「チェックインに20分かけていい」タッチポイントを重視したマネジメント&運営
― もうひとつ、御社で特徴的なのは「20分かけてもいい」というチェックインでしょう。多くのホテルが省人化、省時間化をすすめる中で、これも真逆の取り組みで、これも開業当初からおっしゃっていたことの一つです。
金沢 彩の庭ホテルが開業した2015年の頃からより色濃くなっていましたが、多くのホテルがお客さまとのタッチポイントを減らそうとしています。私たちが目指しているのは、私たちのホテルをお選びいただき、そのご期待に応えるホテルです。
だからこそ、おせっかいなスタッフが重要です。ほかのホテルではやらないようなことまで突っ込んで関わっていく。一般的には不幸ですが、幸い、私たちのホテルの立地は非常に悪い。駅の繁華街口から車で約10 分の、住宅街の中にある、朝食しか出さないホテルです。ということは、お客さまの観光や夕食のサポートが必要なことが多い。
チェックイン時に「○○様、当ホテルは夕食を出すレストランもなく、また、近隣にもお店はありません。夕食はお決まりですか? もしよろしければ、おすすめのお店をご紹介しましょうか?」、「観光のご予定はお決まりですか? もしよろしければ私たちがお手伝いをしましょうか?」と聞けるのです。
さらに“ ありがたいこと” に、立地が悪い分、お客さまの多くは送迎バスをお使いになります。そうなると、バスはおおよそ30 分に1 本の間隔でしか運営しておりません。つまり、スタッフはチェックインに20 分だってかけられるのです。夕食をご案内したお客さまがご出発される際はお名前をお呼びして見送ることができます。早めのお戻りであれば、「○○様、夕食はいかがでしたか?」と聞けます。
開業5年のホテルが、直接予約率25%の理由
また、チェックアウト時にチェックインを担当したスタッフがいれば「○○様、今回のご滞在はいかがでしたか? 冬の金沢は寒いですが、春になれば暖かく、桜も楽しんでいただけると思います。ぜひまたお越しください。そして、そのときはぜひ私にお電話ください」と言うのです。そうすることで、お客さまとの関係ができますし、それによって64 室の小さな独立系ホテルの金沢 彩の庭ホテルですが、2019 年実績で直接予約率25%までいっています。
― 現場視点も大切にした細部にまでいたるマネジメントが現在の金沢彩の庭ホテルを実現しました。今後のテーマは?
当初から目指していた、64 室のホテルだからこその、64 通りのおもてなしを実現することです。ホテルの根幹はおもてなし。だからこそ、それを部屋でも再現できればと。
その先駆けとして、特別な5 室を「神5 室」と称し、部屋のセッティングなどをいらっしゃるお客さまにカスタマイズする取り組みを今年からはじめています。これから金沢には新しいホテルも続々とできる中で、ほかのホテルにはできない取り組みが必要です。
64 室の小さなホテルだからこそできる、64 通りのおもてなし。それによって、「金沢に行くから泊まる」ではなく、「金沢 彩の庭ホテルに泊まるから金沢に行く」そのようなホテルを、真剣に追求していきたいと考えています。