A社は食品製造販売業を営んでいる。職人がつくる商品を店舗や通販、イベントなどで販売する地域の一番店だ。販売価格は、下は180 円から上は1 万円までと幅広い商品をつくっている。一つ一つが手づくりだから、厳密に言えば同じ商品は一つもない。職人さんの個性が商品に宿るからである。商品≒その人という側面から、A 社の社長は、遠慮しているのである。
しかし、ある日を境に、年上の職人さんに遠慮していたのではなく、ほかに理由があることに気づけたそうだ。遠慮は表向きな理由。本当の理由は、自分が商品に向き合う姿勢に欠けていたと思えたそうだ。遠慮してしまうのは、相手のせいではなく、自分が本当にいい商品を届けようとする思いの欠如に理由を置いた。
このことに気づけてからは、相手と向き合うのでなく、商品を間に置いて、お客さまの方を向いて相手と向き合う。向き合うのは一緒でも、方向と対象を大きく変えることができるようになった。単なる指摘ではなく。同じ方向を向いた同志としてのかかわりに関係が深まっていったという。
この商品なりサービスをさらによくしていきたい。そのためには、ここを直してくれないかというアプローチは関係を変える。このエピソードは、年上の部下を持つ人だけでなく、多くのマネジャーやリーダーにとっても示唆があるのではないだろうか。特に、上司と部下の関係が長い期間であればあるほど、互いに発展していくようなかかわりは、一般的には薄くなっていくし、相手の弱いところへの介入も少なくなっていく。