世界のスパ情報に精通したウエルネス事業のプロフェッショナルである相馬順子氏と世界のウエルネス事業者、識者との会話を通じて、ホスピタリティー業界に向けたメッセージを伝える本連載。
近年、国際社会でその重要性が大きくなってきているESG(環境、社会、ガバナンス)の動きがウエルネスにも影響を与えつつあることを踏まえながら、将来にわたって必要とされるウエルネスの形を追求していく。
今回は日本屈指の高級旅館リゾート運営会社として知られる星野リゾートの代表として、日本国内はもちろん、世界に向けて日本の温泉旅館の素晴らしさを伝える星野佳路氏に話を聞いた。
インタビュアーにスパ・ウェルネス産業研究家の丸山智規氏を迎えて、星のや東京で行なった特別インタビューをお届けする。
コンセプトを個別に考えるところから
施設づくりを始め、地域らしさを反映
丸山 星野リゾートは、日本参入が進む外資系の高級ホテルブランドとの差別化をどのように図っていきますか。
星野 それぞれのプロジェクトに対してオリジナルの処方せんを用意している点が星野リゾートの特徴だと思います。
ほかのホテルブランドの一般的な開発プロセスでは、デベロッパーが中心となり造ったものに対して、誰が運営するのかを検討するという順序になります。星野リゾートのやり方は逆で、個別の案件に対して現地における処方せんを創るところからスタートします。一つの案件をどのようなリゾート、どのような宿泊施設にしていきたいのか個別に考えていくのです。
このプロセスを経ることで何が起こるのか。ソフトウエアにおいては“地域らしさ”を引き出すことにつながります。自分たちが創る施設に、地元のよさを反映させたいと私たちは考えています。ブランドは同じであっても、それぞれのプロパティーで提供されるサービスは異なります。その差異をよしとしているのが星野リゾートの特徴であり、世界のホテルチェーンがよしとしないレベルまで追求します。
ハードウエアにおいては、個別のソフトのコンセプトを生かすものを造ってもらえるようお願いしています。「この地域であればこのコンセプトが必要」というソフトを打ち立ててから「このコンセプトだから、こういうハードを造りましょう」という流れで私たちのプロジェクトは進んでいきます。
丸山 その上でヒューマンウエアについての考え方が出てくるのですね。
星野 私たちは「ハードは舞台」だと思っています。舞台の上で演じるのは「役者」であり、現場のスタッフの演じ方が価値を生み出す最大のポイントとなります。
現地に住み、その土地の魅力を理解したスタッフたちに、地域らしさ、地元らしさを反映したメニューを考えてもらうスタイルを採っています。さらにそれが時間とともに変化していくことをよしとしています。ですから開業時が私たちにとってのベストではなく、開業後数年が経過する中で、現地に住むスタッフと周辺の人々とのコミュニケーションやインターアクションの中から生まれてくる新しい魅力が次々と反映され、進化していくことになります。
仕事を楽しくするためには、現場で働くスタッフたちが自分たちで変えていける自由を確保することが大切です。
丸山 現地スタッフの方々は明確に夢を語られて、次に訪れるとその夢が具体的に実現しているケースも見られます。