池上氏は長年にわたりEUのエグゼテクティブ・トレーニング・プログラムのプログラムディレクターも務めるなど日本のみならず世界のビジネスリーダーを指導してきている
継続とイベントの両軸をコンテンツに盛り込むことにより、観光コンテンツを収益性の高いものにすることができる。エンターテインメントコンテンツとしてアートをとらえるとさまざまなポテンシャルが見えてくる
■ IR 時代を迎える日本にどのような見解を持たれていますか?
収益の上がる成長産業が少ない日本国内において新たな市場ができるという意味で非常にポジティブにとらえていますし、日本の未来にとってさまざまな価値観や在り様のパラダイムシフトを可能とするチャンスの到来となるとも考えています。ですからこのチャンスをぜひ最大限生かしてもらいたい。そのためにはIR 市場をどのように構築するかを現場感覚のみでなく、理論面からもデザインするとよいのではないかと思います。そうすると視点がぶれませんから。その際に大事なことはIR を戦略とマーケティング二つの視点で考えるという点だと思います。
特に多くの人に影響があるのは、現在の“よいものをより安く”といった点の価値感の転換です。よいものを割安にというサービスをイノベーションなく続けていくと、サービスは在庫できませんからインバウンドによる観光客の増加に伴い過剰需要になるでしょう。その結果、提供側の対応が追い付かずに“顧客満足度が下がる、従業員は疲弊する、経営者はもうからない“といった負の連鎖を引き起こす可能性もあります。
また、日本はオリンピック誘致の際に「おもてなし」をスローガンに従来の日本的な、あうんで分かりあう空気感の中で琴線に触れるサービスを観光魅力として前面に押し出しました。
しかしこの“あうん”によるおもてなしは必ずしも常に世界共通で心地よさにつながるわけではなく、お客さまに評価してもらうには背景となる文脈が必要なのです。特に富裕層にとって日本人が“おもてなし”だと思っているサービスがミスマッチな場合もあります。特に日本の高級旅館などは彼らとのプロトコールの共有がない場合、相互の“おもてなしの前提が違う”ことが原因でサービスに価値を見出されないケースもある。
またエンターテインメントコンテンツについてもただ海外のものを持ってくる、もしくは単に日本独自のものをそろえるのではなく、例えば欧米系のものを基盤にしつつ日本オリジナルの何かを加味し日本らしさを演出するような工夫が必要でしょう。
おのおのの事業者が自身がどのサービスを提供するかの“選択”、だれに提供するかの“選択”をマーケティングに基づいて導きだす必要もあるでしょう。IR に戻ると、現在IR 市場は初動の3 拠点が約7 兆円規模の市場になると予想されていますが、“超富裕層向けサービス”など今まで日本になかった市場の構築も有益に行なえます。
ただし、その際はIR 単体で市場の構築を考えるのではなく、インバウンドの中の1 ジャンルにIR がある、つまり地域全体を生態系として認識するとよいでしょう。
ハード面でもソフト面双方から戦略を設計することで、IR 市場にとどまらずほかの業態、例えば製造業が超VIP 向け商品を作るなどの活性化やノンカスタマーを呼び込むチャンスも多々見込め、さらなるビジネス規模の拡大も可能にすることが期待できます。
その際おのおのの国の富裕層に明るいプライベートコンシェルジュなどをアドバイザーにつけ、その知見をIR 事業のみでなく地域生態系のほかの事業者と共有できるとより効果的ですね。
「IR市場始動は日本の未来にとって起爆剤となる可能性が大いにある。
徹底してエッジの効いたコンテンツを提供するような魅力創造をしてもらいたい」と池上氏
池上氏監修の新著『インバウンド・ビジネス戦略』。インバウンドビジネスに持続的な発展をもたらす示唆に富んだ本書はIR誘致を望むすべての関係者に読まれたい1冊だ
日本に新たなストラテジーを紹介したことで話題になった「日本のブルー・オーシャン戦略」。「IR市場はまさにブルーオーシャンという戦略がとても生かせる市場です」と池上氏