いよいよ東京オリンピックも来年に迫り、日本政府が推進する「観光立国」はインバウンドの増加目標を前倒しする勢いで成功していると思われます。そして、その観光産業の最も重要な宿泊施設の問題も、民泊新法の整備や旅館業法の改正などにより、大きな環境変化が起こっているところです。
しかし一方、京都で問題となっているオーバーツーリズムに象徴されるように、新しい環境変化が巻き起こす新たな問題も発生しているわけです。
このような問題は、本来ならばインバウンドを積極的に招来する産業戦略を描いた時点で、ある程度の予測をもとに充分な準備をしてから取り組めば大きな問題に発展することはないと思われますが、往々にして表面的な結果を先に求める傾向があるのは日本人の欠点かもしれません。
さて、このような環境変化の中で、私どもは1 年半にわたる連載において、もう一つ日本政府が掲げている大きな課題である「地方創生」と観光立国の推進を結び付け、その具体策として旅館を中心とした日本独自の文化やサービスを「売り」とする、地域が一体となったツーリズム産業を展開するための「地域一体再生スキーム」をその最右翼としてご提案してまいりました。
ホテル軒数は増加しているものの、規模の小さな独立系のホテルは減少し、ピーク時に全国で7万軒を誇っていた旅館軒数は今や半減して、このままでは全国から駅前ホテルや中小規模旅館がなくなる恐れがあります。
従って、今回の連載からは、より具体的にホテルや旅館業が継続するために絶対避けては通れない「事業承継」の問題を正面から取り上げ、個々のホテルや旅館が事業承継を円滑に行なうことこそが、地方創生や日本経済の復活に必要なこととして、その解決に不可欠のファイナンス思考に沿った事業承継の要諦をお話ししてまいりたいと思います。
今回から始まりますこの連載においては、ホテル・旅館の事業承継を円滑に実行するために、どうしてファイナンス思考が必要なのか、特に現在多くのホテル・旅館が直面している耐震補強とリノベーションの問題をその具体事例として取り上げ、考察してまいりたいと思います。この連載をお読みになれば、事業承継やリノベーションの本質を理解することが可能となり、その的確かつ実践的な実行を可能とするヒントが得られるように、できる限り平易に分かりやすい表現で解説してまいりたいと思います。どうか、読者の皆様からも折々にご質問やご意見をいただきますようお願い申し上げます。
第一回となります今回は、日本の観光産業の発展のために、どうして事業承継とリノベーションが重要なのかということについて、少し意見を述べさせていただきます。