1600年に創業され、今年424年目を迎えた長野県渋温泉の古久屋。現在代表を務める17代目・代表取締役の小根澤宏介氏は2018年、28歳で16代目であった父より代表取締役の座を受け継ぎ現在に至る。マーケットが大きく変化する中で若きリーダーが歴史ある老舗旅館を後世に伝えるために何に取り組むのか。小根澤氏に聞いた。
28歳で代表取締役の座を承継という青天の霹靂。
歴史を受け継ぎながら自身のスタイルを模索
約1300年前、奈良時代に行基菩薩によって発見されたと伝えられ、戦国の武将、武田信玄の寄進により温泉寺が開山されたという長い歴史を持つ渋温泉。「渋温泉 古久屋」は1600年に当時渋温泉で「穀屋(こくや)」と称する穀物問屋を営んでいた古久屋の初代当主市左衛門氏が旅人宿を開き、400年以上を超えて現在に至るまでの由緒を持つ老舗旅館だ。
その歴史は少し変わったところからも感じることができる。それはWEBサイトのドメインで、古久屋の屋号は穀屋から派生したものだが、WEBサイトのドメインは創業者の市左衛門氏からとって「ichizaemon.com」となっている。渋温泉の中には同様の旅館もあり、長い歴史に紐づく各宿の物語がさまざまなところから透けて見える。
「当館の魅力はやはり7つの泉質・効能の異なった源泉を堪能できる、8つの100%天然温泉のお風呂です。WEBサイトなどでは6つの源泉となっておりますが、最近取得した隣接している旅館の源泉も加わり、現在では7つの源泉をお楽しみいただけることで、これが古久屋を訪れる多くのお客さまにご評価をいただいています」(「渋温泉 古久屋」 17代目代表 小根澤宏介氏。以下同)。
「福六の湯」:古久屋が所有する7つ源泉を他の源泉と混ぜ合わせることなく、 そのまま6つの湯船に注ぎ込み、古久屋の源泉を全てを体験できる風呂
「一茶の湯」:20人が一度にゆったりと浸かれる広さを誇る。また、ミストサウナ「ほっかん」を併設しており、温泉の湿式サウナも楽しめる
28歳でやってきた17代目の就任。当初は小根澤氏も旅館業の経験が浅く、苦労の連続だったという。そこにやってきた、世界の旅行業界でも未曾有の経験であり旅行者の価値観に大きな変化と多くの宿泊施設・企業の経営に大打撃を与えたコロナ禍。小根澤氏は試行錯誤をしながら独自のスタイルを模索し続けた。
古久屋 17代目・代表取締役 小根澤 宏介氏
「私が古久屋を継ぐことになったのは2018年、私が28歳の時でした。いずれ継ぐことになるということは考えていましたが、30代半ばくらいかなと想像をしている中で、現在会長を務める先代から話をいただいた時、それはまさに青天の霹靂でした。
実際に引き継いでからは経験もない中でしたので、先代のようなリーダーシップを発揮していくというよりは、試行錯誤をしながら現場で働くスタッフの話を聞きながら考えて決めていくというスタイルでした。やり方が変わればもちろん最初から上手くいくわけはなく大変なこともありましたが、コロナ禍が大きなきっかけになったと思います。
17代目に就任して1年と少し経過をして、コロナ禍という大惨事がやってきて、外国人はおろか日本人のお客さまもいなくなり閉館を経験したり、営業再開後も三密回避・ソーシャルディスタンスによる露天風呂や大浴場の貸し切り対応などこれまでにない経験をいくつもすることとなりました。まだ力不足な点は多々ありましたが、現在会長の父や女将である母、そしてスタッフたちの協力もあってそれを乗り切れたことは、私はもちろん、古久屋のスタッフ全員の自信にもなっていると思います」。
新しい時代の中における歴史ある旅館の最適解を求め
コロナ禍でやむを得ず変えなくてはならなかったことの中から、結果として今も続くようなゲストから高評価を得るサービスも誕生した。コロナ禍で大きく変化をした人々の価値観は旅行するゲストの価値観にも大きな変化を与えた。そして、小根澤氏は古久屋の脈々と受け継がれてきた歴史や伝統を重んじながらも時代の変化、ゲストのニーズの変化を見ながら絶えず必要なオペレーションの改善や大胆な改装なども手掛けるようになっていく。
「古久屋の運営面においてコロナ禍の影響で生じた最も大きな変化は、館内にある8つある風呂をすべてほかのお客さまと一緒にならないように1時間ごとの貸し切り制にしたことです。
古久屋には渋温泉の中でも最大規模の露天風呂もあり、そちらは以前は有料での貸切制だったのですが、その露天風呂を含めすべてのお風呂を無料貸切制に変更をしました。そして、コロナ禍が明けた現在においてもそれを継続しています。
当然『好きな時間にほかのお客さんが入ってて入れないじゃないか』といったお声をいただくこともあるのですが、全体として見ればグループやご家族、カップル、お一人の方などさまざまなお客さまがいらっしゃいますが『ほかのお客さまに気兼ねなくお風呂に入ることができた』と好評をいただいておりまして、これは継続をしています」。
「また、国の補助金制度なども活用し、国内と海外両方の富裕層のお客さまをターゲットに一日一組限定の特別室『久遠(くおん)』を2023年4月にオープンしました。
今までの渋温泉にはなかったサービスの提供をコンセプトとして心掛けています。当室には内風呂と2つの露天風呂がありますが、内風呂については先にお話をした7つの源泉から3種を厳選し引湯しています。その3種の中からお客様ごとの好みに応じて、お好きな源泉をお楽しみいただけます。また、次の間では古久屋で唯一の部屋食ができ、当室限定メニューの会席料理をお楽しみいただけます。なお、お客さまのご滞在をより快適なものとするためチェックインからチェックアウトまで当室専属のスタッフがおもてなしをさせていただきます。
渋温泉にはニホンザルが温泉に入る地獄谷野猿公苑が有名で世界中から多くのお客さまが訪れますが、国内外の5つ星クラスのホテルに泊まり慣れたお客さまがこのあたりに満足できる部屋がないという声があると聞き、事業を計画しました。お一人様一泊二食付で最低でも8万円台からの価格設定でも多くのご予約をいただいています」。
新客室「久遠」エントランス
中長期的な視野でインバウンドへの取り組みも強化。
オンライン商談ツールでのセールスに大きな期待
渋温泉はコロナ禍以前より温泉に入るニホンザルで有名な野猿公苑などの人気コンテンツもありインバウンドゲストが早期から訪れるエリアであった。古久屋でもコロナ禍以前よりインバウンドの集客には力を入れていたが、今後さらにその取組に力を入れていくという。
「コロナ禍以前でもインバウンドゲストの割合は4割弱でしたが、コロナ禍を経た現在は32カ国約7割ほどのお客さまが海外からのお客さまです。コロナ禍を経て日本政府が水際対策の緩和をし始めて以降急激に海外のお客さまが増えたという印象です。
そして、特徴的なのはいらっしゃるシーズンの広がりです。以前でも冬季になると雪を見るために海外のお客さまで予約がほとんど埋まるということは珍しくありませんでしたが、コロナ禍以降は雪のないグリーンシーズンでも数多くの海外からのお客さまがいらっしゃっています。また、販売単価もコロナ禍以前と比較して一人単価で1万円以上上がっています」。
古久屋の経営・運営は順風満帆のように映るが、小根澤氏は未来を見据え、現状の課題も把握していた。そして、それを解決するパートナーとして浮上したのがAlisの提供するTabiCall(旅コール)だったという。
「足下の状況を見てもインバウンドのお客さまの集客、そして来館後の対応の重要性は増しています。来館後の対応に関してはこれまでも長くやってきましたので表に出るスタッフに関して最低限英語は話せるんですが、それでも夜勤のスタッフの対応力には課題もありますし、英語以外のより多くの言語への対応という点では多言語対応を可能にしてくれるTabiCall(旅コール)には期待をしています。
そして、今回何よりも期待をしているのはTabiCall(旅コール)さんの提供するオンライン商談ツールを通じて海外の旅行代理店などと直接商談ができる仕組みですね。TabiCall(旅コール)さんのツールはわたしが日本語で話をしてもその場で英語や中国語など相談相手の言語に即時で変換をしてくれて、スムーズな商談が可能になるという技術には驚かされました。私自身年に何度過海外へセールスに行くのですが、最低限のコミュニケーションはとれても、細かなニュアンスが伝わりにくいとか、言いたいことが言えないとか、もどかしさを感じると同時に正確な情報を伝えることができていないことに課題を感じていました。TabiCall(旅コール)のツールを使うことでそうした悩みを解決できるので、このシステムは積極的に活用したいと考えています」。
TabiCall(旅コール)を通じた商談の様子。日本語で話すと即時で英語や中国語、韓国語などの翻訳が表示され、言語の壁を取り払ったスムーズな商談が実現する
国内外のお客さまを迎えられる唯一無二の旅館を目指す
「コロナ禍という大きな危機を経験し、新しいオペレーションの確立やこれまでにない最高級の滞在経験を提供する客室のオープン、そして新たな宿泊施設の購入などさまざまなチャレンジをしてきました。当然苦労も多かったですが、そうした苦労を経験することで得られた手応えや自信もあります。
今回導入するTabiCall(旅コール)を通じた海外へのセールス・マーケティングの強化もそうですが、さまざまなチャレンジを継続することで古久屋を渋温泉だけでなくこの地域を代表する唯一無二の旅館にしていきたいと考えています」。
渋温泉「古久屋」
https://www.ichizaemon.com/
Alis 「TabiCall(旅コール)」
https://www.hotelsapo.com/