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酒のSP 特別編 Mese del PROSECCO 2018

酒のSP特別編「プロセッコは自由だ  創造性を高める食やライフスタイル、カクテルとの親和性」

【月刊HOTERES 2018年07月号】
2018年07月26日(木)
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「Cantina do Mori」はヴェネツィア最古のバーカロ。情緒あふれる店内は旅行者にとってはエンターテインメントであり、地元客には安らぎとなる

 
バーカロで分かるプロセッコのユーティリティ
 
 プロセッコの魅力を拡張させるのは、その自由さだ。産地周辺の北イタリアの食前を彩る存在としてだけでなく、飲用スタイルとしても幅広いシーンで人びとに寄り添っている。イタリア屈指の観光地、ヴェネツィアにおけるプロセッコの存在は食との楽しみの教科書とも言えるだろう。街中に点在する「バーカロ」はレストランやバールとも異なる業態。ヴェネツィアならではの居酒屋であり、日本で言えば下町の立ち飲み屋だ。カウンターでプロセッコやワインを注文し、ショーケースに並んだ「チケッティ」と呼ばれる一口サイズのつまみを選ぶ。サラミやチーズ、バッカラマンテカート(干しダラのペースト)やイワシの酢漬け、魚介のフリットなどバラエティー豊かだ。軽く1、2杯を楽しみ、後ろ髪を引かれるように店を後にするのはこのあと数軒はしごするからだ。
 
 今年も8月から全国100店舗余りのレストランでプロセッコDOCのプロモーションが展開される。昨年の優秀店舗である「KNOCK CUCINABUONA ITALIANA」(東京・六本木など)の大西淳一氏と俵太陽氏、「NIDO」(大井町)の戸羽剛志氏と茂木孝弘氏は4月中旬に、日本ソムリエ協会理事でプロセッコDOC アンバサダーの水口晃氏とともにヴェネトを訪ねた。この旅程でもヴェネツィアに立ち寄り、4軒ほどのバーカロを巡った。
 
 初めに訪ねた「Osteria Al Diavolo EL'acquasanta」は地元客になじみの居酒屋といった存在だ。入り口近くのカウンターと店内奥に続く着席テーブルのオステリアで、しっかりとした食事もできる。立ち飲みでは2~5ユーロ程度のワインとバッカラのフリット(2ユーロ)などが並ぶ。
 
 次の一軒「Cantina do Mori」は1462年に開業したという現地最古のバーカロだ。ヴェネトのクラシカルなレストランに多く見られる、天井にぶら下がるたくさんのポレンタ鍋が印象深い。毎朝8 時に開くこの店には、観光客と地元客それぞれがひっきりなしに出入りする。誰もがワインとフィンガーフードを両手にしばし語らい、30分もしないうちに店を出ていく。バーカロは遅くとも朝10 時ごろには開く、ヴェネツィア人の生活に根差した存在だ。現地ガイドとともに巡るバーカロツアーもあり、この地の楽しみを知らせる観光資源でもある。ここで過ごす人たちにとっての宿り木だ。バーカロの存在を知れば、プロセッコが時間や食、飲み手を選ばない自由なワインであることが分かるはずだ。営業時間としてはバールに近く、品ぞろえとしては居酒屋に近い。土地柄が表れる品ぞろえや親しみやすさを持つ業態のあり方は、今後の我が国の宿泊業界や外食産業、特に地方都市の国際化に向けて良いヒントをもたらすはずだ。

「Osteria Al Diavolo E L'acquasanta」は地元客にも身近なオステリアとバーカロを兼ねた店。これらを眺めて回るだけでも気分が高揚する
グラスをはじめワインの提供スタイルもさまざまだ
街を歩けばメルカートにもたどり着く。現地を視察した料飲店スタッフにとってはこちらも興味深い

産地を訪ねる ⑥ Gambrinus(ガンブリヌス)


リキュール「Elisir Gambrinus」をベースに、プロセッコとの相性も抜群でカクテルとしての可能性が広がる

 1847年にコネリアーノの南に創業したワイナリーは、今日ではこのエリア屈指のリストランテとしても認識されている。1958年にレストラン経営を引き継いだアドリアーノ氏は当時まだ21歳だったが、イタリアを代表するレストランの一つとしてその名を高めたばかりでなく、多くの出版物を持ち、ブライダル施設としても反映させた。プロセッコDOCの生産はしていないが、DOCGやIGTのスプマンテ、土着品種ラボーソのスティルワインなどをリリースしている。
 樹齢100年を超えるラボーソを用いた「Elisir Gambrinus」はイタリアで人気のリキュールで、米国のオバマ大統領就任を祝うアイテムにも選ばれた。ジァコモ・ザノット氏が発明したこのリキュールは、オーク樽で熟成させたラボーソにハーブやさとうきび、グラッパをブレンドしたものでルビーの色濃い輝きが特徴的。プロセッコにこのリキュールを注ぎ、トニックウォーターで割るスプリッツタイプのカクテルや、ウオッカとバニラアイスで作るデザートタイプのカクテルなど、日本には未輸入ながら独特の存在感を放っていた。

リキュール「Elisir Gambrinus」はイタリア産リキュールの中でも唯一無二の存在
ワイナリー創業から事業拡大、マーケティング活動など多面的なアイディアが強く感じられる
輸出とマーケティングを担当するサノット・ジャンマリア氏。土壌とブドウ、ワインの魅力を語ってくれた
レストランに併設された熟成庫。半地下で温度、湿度を一定範囲に保ってくれる

カクテルベースとしてのプロセッコは、創造性を極限にまで高める


ヒルトン・モリノ・スタッキー・ベニス「Skyline Rooftop Bar」でもプロセッコカクテルは人気メニューだ

 プロセッコはワインとしての存在にとどまらず、ほかの素材と楽しみを共有する。

 
 桃とスパークリングワインのカクテルとして広く知られる「ベリーニ」はヴェネツイアのハリーズ・バーの生まれ。1948 年に当時のオーナー、ジュゼッペ・チプリアーニ氏(1900-1980)がルネッサンス期の画家、ジョヴァンニ・ベリーニの展覧会の際に創作したと言われている。当然ながら、このカクテルのベースはプロセッコだ。
 
 カクテルとしてのプロセッコの存在は北イタリアに限らない。モナコの名門ホテル「オテル・ド・パリ」のシグネチャーカクテルや、海外の数々のカクテルブックのレシピにも登場する。プロセッコDOC の公式サイトでもイチゴを用いた「ロッシーニ」やクランベリーによる「コスモポリタン」など10 種類が掲載されており、カクテルとしての提供も推奨されている稀けう有な存在だ。
 
 昨年のプロモーション優良店ツアーの一行も、プロセッコカクテルを求めてヒルトン・モリノ・スタッキー・ベニスを訪ねた。この最上階「SkylineRooftop Bar」はヴェネツィアを一望できるバー。ここでもアペロール・スプリッツをはじめとしたプロセッコによるカクテルが人気だ。
 
 ジンとカンパリ、スイートヴェルモットのカクテル「ネグローニ」をはじめ、苦みがカクテルトレンドの一つとなっている今日だが、イタリアは長らくその先頭を走ってきたと言える。ハーブやスパイスの香り豊かなヴェルモットやアマーロなどのリキュールは流行にかかわらずそろっており、それはバックバーを眺めれば一目瞭然だ。これらをどのように使い分けるかを聞けば、飲み手が好き好きでウイスキーを頼むように、ヴェルモットやリキュールをオーダーするのだと言う。「ネグローニ」でも、好みのジンを選ぶのと合わせてヴェルモットの種類も指定するのがイタリアのカクテル好きの頼み方だ。
 
 プロセッコをジンの替わりに使用する「Negroni Sbagliato」(ネグローニ・ズバリアート)がプロセッコDOC サイトのカクテルページに掲載されているが、「Sbagliato」とは“ 間違った”を意味するイタリア語。派生して、元になる定番アイテム(ベリーニやティラミスなども)をアレンジしてメニューに名付ける、イタリアでのネーミングのトレンドワードだ。
 
 ワインであるにもかかわらず自由に創造できるのが、プロセッコの魅力の一つだ。ぞれぞれの店に存在するフルーツや野菜、ハーブやスパイスを使ってカクテルにしてみることを勧めたい。さらにその価値を高めるなら、おのおのの地域性が現れる素材や器づかい、ネーミングなどの工夫を施して、ドリンクメニューはより親しみやすく彩られていくだろう。
(連載おわり)


ヴェルモットやアマーロなど、味わいの深みをもたらすリキュールの存在もイタリアの特徴だ

フレッシュトマトと桃を用いた「Uva d ’oro」。イタリアの夏をイメージ。プロセッコの爽快な酸味とアロマティックさを柑橘やトロピカルフルーツ、ハーブで高めた
エスプレッソとフランボワーズ、プロセッコによる「Spuma Crema Bruna」はコーヒーに介在する果実味を引き出したオールデイカクテル

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