ホテルメトロポリタンエドモント 統括名誉総料理長 中村勝宏氏
㈱オフィス・オオサワ 取締役 大沢晴美氏
はじめに
以前、このホテルレストランの誌面で十六名の食のエキスパートの方々と対談させて頂いた。このことはかけがえのない財産となっている。そして改めて食の深さを知ることとなった。今日、世界的にさまざまな問題が生じ混沌として厳しい時代となった。しかし私どもはいかなるときも食と向かい合ってゆかなければいけません。この度の対談の再開にあたり、新しい視野の元、敬愛する皆さまと互いの胸に響きあえる対談を心してまいりたい所存です。
他の方たちを喜ばせる喜び
中村 今までいろいろと語ってまいりましたが、やはりFFCC の本格的な活動の中でフランス人シェフのアントワーヌ・シェフェールさんが主任教授として来られたことが非常に大きかったことでしょうね。
大沢 全くその通りで、当初私はフランス料理について全く無知な状況でしたが、アントワーヌさんを通じて実にさまざまなことを学びました。彼抜きではFFCC は語れないと思います。
中村 それで大沢さんは、レストランの理論的な背景、また技術的なベーシックな面、サービスについてもさまざまなことを学ばれてまいりました。フランスの現場を通じて、多くのフランスを代表するグラン・シェフたちと知り合い、しっかり絆を築いてまいりましたが、そうした中で記憶に残ったことはどんなことがおありですか?
大沢 まず私は、最初に身をおいていたファッションの世界と違うと思いました。ファッションの世界でもフランス人とはある程度お付き合いはありました。でもすごく違うんですよ。それを如実に感じたのは、ラムロワーズさんの厨房で「Le plaisirde faire plaisir aux autres(他の方たちを喜ばせる喜び)」ということが書いてあるわけです。
中村 まさにレストランの使命ですね。
大沢 そうなんです。ファッションって、洋服の着心地が悪くても、「それはあなたが痩せれば済む問題よ」という部分があるじゃないですか(笑)。売れる、売れないという部分があるとしても、「それはあなたの問題であってデザイナーさん、クリエイターさんは素晴らしいものを作っている」というのが根本にあります。食の世界というのは食べて無くなって消えてしまうけども、「偉い人から若い人にいたるまで、他の人が喜んでくれてやっと自分が嬉しい」というのが一番根本にありますよね。サービスの人もそうじゃないですか。