学生時代に初めて飲食の世界に関わり始め、以来40年近い時が過ぎ去りました。業界の転変、私自身の浮沈、バブルの一端なども経験してきました。時代の波に翻弄されあだ花のように散っていったレストランや、その時々の話題をさらい大きく大きく発展、展開を遂げた企業や同業の仲間を少し離れたところから眺めてきたような気がしています。
そして自分自身は置かれた時代時代に自分の考えで独自に何かを表現してきたように思っています。一方で何かやり尽くしていない、本質に迫っていないようなもどかしさも常に抱いておりました。そんな思いを抱きながら2015 年、原点に戻るようなつもりで小さなレストランを始めました。再び自身のいる場所、自身が振る舞う現場として。可不可kafuka tokyo という13 坪足らずの小さな店です。
今までの経験やお客さまとのつながりはもちろん連綿と続いてはおりますが、一からまったく新しいことに取り組みたいと考えました。レストランという媒体(メディア)が持つ可能性や広がりを自分なりに実証、検証したいという思いです。この年齢になりわれわれの仕事が存在する意義を改めて考えたいとも思いました。
この間に世界の中における日本の食文化、レストランサービス、調理やその技術に対する評価や見方が大きく変化してきました。それにつれてこの国におけるレストランなどの食の場のあり方も近年大きな変貌を遂げてきたように思われます。名実ともに素晴らしい仕事をなさっておられるレストランもたくさん生まれています。また地方にもその地その地で独自の存在感を発揮し、なおかつその場所にある意義、必然性をきちんと持ち地域の生産者の方々などと触発し合いながら新しい食文化を創造しておられるシェフなどもどんどん増えてきました。フランスをはじめ世界の各地で活躍する日本人シェフも同様に増え続けています。とても興味深い状況、状態にあるように思います。そもそも日本人が独自に持つさまざまなポテンシャルが正しく評価され、発揮される環境ができあがってきたということでしょう。
そのような日本の文化歴史背景を自分なりに改めてきちんと理解し伝えることができるような立場になることをこれからの10 年のテーマにしたいと考えています。本当に何も知らないことにがく然としておりますが。生産者の方々との交わりや酒やワインを醸す方々、工芸や芸能に携わる方々とそれぞれの仕事、表現に触れることができる機会や場をどんどん作っていきたいと思います。その場や機会で皆さんをつなげ、交わりを促すことで生まれる新しい発見や可能性、表現を自分なりに現実のものにしていくことが与えられた役割なんだと考えています。
日本の東京にいながらにして世界の人や物、情報が自ずと集まってくるようなそんな“ 場” を作り上げ発信し続けたいと思います。今はまさにそういうことが可能な時代なんだとも感じています。
さまざまなテクノロジーや情報伝達手段の変化などにより飲食業のあり方も変化を余儀なくされている側面も多分にあるでしょう。業界全体のあり方も大きく変わるような予測もされています。変化すべきこと、変わってしまってはいけないことを正しく見極める必要があります。
こんな時代背景の中のわれわれの業界、自分自身の今後の10 年間の展開、変化がとても楽しみです。
㈱可不可
http://kafuka-tokyo.co.jp/
Vol.32
2017年新年号 特集Ⅰ「わが社の10年後」 Vol.32 ㈱可不可 代表取締役 宮下 大輔 氏
これからの私の10年間、10年後
【月刊HOTERES 2017年01月号】
2017年01月06日(金)