ホテルブランドが多様化する中、ブティックホテルというカテゴリーが世界で確立されて久しい。日本でも2014年に開業をしたアンダーズ東京を皮切りにようやくそのトレンドが及びつつあるが、一方世界では増加するブティック・ホテルのM&Aなどトレンドはさらにその先を行っている。
本連載ではトレンドの最先端を行く米国やニューヨークのホテルブランド動向について、コーネル大学において修士号を取得後、ホテル投資アドバイザリー企業でのインターンを経てホテル運営企業での開発経験を持つNY在住の吉田直子氏に紹介をしていただく。
アメリカのホテル市場では近年にブティックホテルが躍進し、ブランド・ブティックホテルのM&Aや大手ホテルチェーンのライフスタイルブランドが参入するなど活況を見せています。また、それに伴い大手ホテルチェーンのソフトブランドも躍進するという現象が起こっています。現在のアメリカのブティックホテルの動きをレポートします。
近年のブティックホテル市場
アメリカのブティックホテルはホテル業界全体に占める割合は収益ベースで4.1%(2016年現在)と業界全体では比較的小規模ですが、リーマンショック後に急速に成長し、その後もホテル市場全体の回復・成長に沿って順調に成長を続けています。2010年から2014年のアメリカのブティックホテルの年平均成長率は総収益で8.5%、純利益で23.1%、それに対してフルサービスの年平均成長率は6.0%と12.6%でした。
ブティックホテルを大まかなカテゴリーに分けると、1)インディペンデントブティックホテル注1)、2)ブランド・ブティックホテル注2)、3)ライフスタイルホテル注3)と分けられます。
Source: CBRE 注4):ブティックホテルとフルサービスホテルのパフォーマンス比較
ブランド・ブティックホテルのM&A
特筆すべき現象は、大手チェーンホテルや投資会社によるブランド・ブティックホテルグループの吸収合併や買収です。投資家がブランド・ブティックを今後も投資先として有望視していることを示しています。
近年のブティックホテル案件
・2011年: Joie de Vivre Hotels とThompson Hotelsの合併 33ブティックホテルと12ラグジュアリーホテルが合併したことにより45のラグジュアリー・ブティックホテルグループの誕生。合併後の年間収益約5.65億ドル($500MM)
・2014年: IHG groupによるKimpton Hotel &Restaurant 買収 IHGグループのブランドポートフォリオの中に62のラグジュアリー・ブティックホテルが加わる。取得額約4.85億ドル($430MM)
・2016年: 投資会社によるThe Morgan hotel group買収 取得額約9.04億ドル($800MM)The Morgan hotel groupはロンドン、ニューヨーク、マイアミ、サンフランシスコなどに4,500室以上のブティックホテルを運営
The Morgan hotel groupのRoyalton Hotel (New York)
ブランド・ブティックホテルに加えて、グローバルホテルチェーンもブティックホテルを好む顧客層を取り込もうとさまざまなライフスタイルブランドを投入しています。主なブランドはHyattによるAndaz、HiltonのCanopyなどがあります。
ブランド・ブティック/ライフスタイルホテルを好む投資家
ブランド・ブティック/ライフスタイルホテルは、投資家・オーナーの視点から、マネジメント層の運営経験・高収益性・売却時の低リスク等の理由で好まれます。また開発者の視点からは、競争力のの高い施設デザインとキャッシュフローを生み出しやすい物件として注目されています。
インディペンデントホテルへのインパクト
STRのリサーチによると、ライフスタイルホテルが1%増えると、インディペンデントホテルは0.04%RevPARが減少するという結果が出ています。インディペンデントホテルは、需要が十分にあるニューヨークやサンフランシスコなどの高ADRの都市部では比較的ブランドホテルと大差なく競合できますが、需要にばらつきのある地方都市では難しいといわれます。
ソフトブランド注5)の台頭
インディペンデントホテルの弱みを補う形で、チェーンブランドのソフトブランドも近年台頭しています。ソフトブランドは2009年から2014年にかけて17.8%の年間平均成長率で増加しました。インディペンデントホテルにとって、ソフトブランドと提携することは、グローバルブランドの送客サポートを得て収益を増やす有効な対策の一つです。もしくはSmall Luxury Hotel of the Worldのようなコンソーシアムも同等の役割を果たすといえます。
日本でのブティックホテル開発の今後は?
米国と日本のホテル開発環境は、不動産市場、需給関係、資金調達等において決して同一ではありませんが、グローバルホテルチェーン、国内ホテルチェーン、異業種からの新規参入会社が競合する現在の状況において、ブティックホテル成熟市場の米国は、今後のホテル開発戦略において参考になる箇所があるかもしれません。
注1)独立系のデザイン重視ホテル:一般的に部屋数40から300室、会議室10,00sqm未満レストランとラウンジまたはローカルダイニング・エンターテイメントを擁す。UpscaleからLuxury
注2) Small Groupのブティックホテル:ブランドとしていくつかブティックホテルをもつホテルグループ。UpscaleからLuxury 。例としてKimpton Hotels and Restaurants Group, ACE hotelsなど
注3)グローバルチェーンによるブティックブランド:デザイン重視、ブティックホテル好みの旅行客をターゲット、ラウンジ・スナックバーを擁す、Upper Midscale もしくはLuxury。例としてHyattのAndaz, HiltonのCanopyなど
注4) Source: CBRE:ブティックホテルとフルサービスホテルのパフォーマンス比較
注5)大手グローバルチェーンのアフィリエイト:シグネチャーホテルで個別に名称・ブランドがある。ユニークなデザイン。ほぼ全てがレストランとラウンジを擁す。UpscaleからLuxury 例としてMarriott Autograph Collectionなど
※本文では1ドル=113円として計算しています。
- 吉田 直子 プロフィール