トム・ディクソン(Tom Dixon) 氏
講演1
「Design Research Studio のインテリアプロジェクトについて」
Tom Dixon トム・ディクソン氏
ファッションデザイナーのように
自らのもとにブランドを置いて展開
骸骨にたとえながらトム・ディクソン氏が語ったのは、「ものの構造への関心」だった。「コンピュータで創られた現代的なデザインの多くはオブジェの皮膚の部分、すなわちものの表面の形が重要視されています。私の作品はその逆で骸骨のようなものの構造がまずあり、その構造自体がデコレーションされた形で表現されたオブジェとなっているのです」
多くのオブジェを制作した後、ディクソン氏はプラスチックの会社とも提携し、産業化と工業化の両面を推進する活動を行なった。そしていくつかの仕事を経て、自身のブランド「Tom Dixon」を立ち上げたのである。「Tom Dixon」は、他の多くのプロダクトデザイナーとは異なるスタンスで仕事をするビジネスモデルを目指した。ほとんどのプロダクトデザイナーはメーカー企業のために仕事をしているが、ディクソン氏はファッションデザイナーのように自らのもとに「Tom Dixon」ブランドを置こうと考えたのだ。
ディクソン氏は、インテリアに多くの遊びを与えることのできる照明についても、大切な商品カテゴリーの一つと捉えている。たとえば照明自体が宝飾品のようなクラシックなシャンデリアの作品は、大きな光を使いながら、彫刻的なテイストを加えることで部屋全体の雰囲気を変えるだけのパワーを感じさせる。
「家具からスタートした私たちのインテリアデザインはやがて照明へとつながり、さらにブランドの世界観を完了させる小さなアクセサリーにまで広がってきています」
たとえば英国の伝統的なティーセット。正式な形をベースとしながらコンテンポラリーな要素を加え、アフタヌーンティーの楽しみに付加価値を与えるデザインとなっている。「Tom Dixon」のスタジオにはレストランもあり、スタイリッシュでありながら実践的なデザインのキッチン用品が揃っている。スタジオという空間で、それぞれの作品が一連のブランドストーリーの中に組み込まれていく。
ローカル性に基づいた物語を
ホテルのインテリアデザインで表現
「Tom Dixon」は2014 年、アメリカのモーガンズ ホテルグループがロンドンのテムズ川沿いに360 室で建てたモンドリアンホテルのインテリアデザインを担当した。テムズ川に面したクルーズ船のように見える外観のホテルのインテリアについて、「Tom Dixon」では「ニューヨークとロンドンを結ぶ魔法の旅」という物語をコンセプトに据えた。
「1920 年代から1930 年代のクルーズ船を念頭に置き、ロマンチックな場所でホリデーを過ごすイメージをデザインによって具現化しました。アメリカ的な雰囲気を感じられる要素を散りばめながら、同時にロンドンにいることを実感できるような空間を目指しました」
イギリスの古典的な海洋技術をモチーフに、約6mの銅製のレセプションデスクを創った。ロビーにはアメリカのポップアートを彷彿とさせるアンカーチェーンのオブジェが置かれた。アメリカの芸術作品が、海を渡ってロンドンに到着したというストーリーを遊び心満載で表現したのである。
「Tom Dixon」は2015 年7月、東京・青山にもショップをオープン。エンターテインメント性も感じられるショールームを通じて、作品を実際に目にすることのできる場所を提供していく。