成長するインドをターゲットにすることは日本の観光業にとっての重要なテーマ
さらに成長著しいインドについても、日本の観光業界は意識していくべきでしょう。世界の旅行者数を見ると、2019年は 14億人でした。コロナがなければさらに伸びていき、2030年には 18億人という予測が出ていました。今後のコロナの状況がどうなるかはありますが、2030年に向かって世界の旅行者数は成長していくわけです。こうしたマーケットにおいて、多くの人口を抱えるインドをターゲットにすることは、日本の観光業にとっても重要なテーマとなるはずです。
日本が観光立国を目指す道筋として、中間層が増えてきているアジア・太平洋地区の成長を見越した上で、戦略を練るべきだと考えています。欧米から見ても、アジアから見ても、日本は魅力的な国です。その観光需要に応えるために、コロナ以前から、2020年に向かって宿泊施設の不足を補うために多くの施設を造り始めました。コロナによってホテルが華々しくオープンすることはできなくなってしまいましたが、それでも必要な供給量を支えるための地盤はできていると見ていいでしょう。
外資系のホテルブランドが日本に進出してきたことで、欧米の人々に向けたチャネルは完成しています。欧米からのインバウンドに対する日本の魅力のベースはできていますので、短期的にはそれを持続的に発信していくことに注力すればいいと思います。ただし中・長期的な視点、つまり、2030年も視野に入れた戦略を立てるにあたり、アジア・太平洋地区に対するプロモーションを活発化させる必要があると思います。
----短期的な戦略と中・長期的な戦略の両方を、明確にするべきということですね。
コロナ禍からの回復に対する短期的な課題は重要ですが、同時に、観光立国という中・長期的なビジョンは分けて考えた方がよく、常に同時進行で取り組んでいくべきです。短期的な課題に対しては世界の動きに負けないようにスピーディーに進めなければならず、その先にある持続的な需要を押さえるためには、世界経済の中心であり、多くの旅行者が訪れる地域をターゲットにする必要があります。
一方で、宿泊施設の基盤はある程度 整いましたが、さらに先のことを考えるとまだ不足している場所はあります。しかし、建築費が上昇している点が大きな課題です。国は設備投資に対する補助事業は行っていますが、なぜかリノベーションが中心になっています。停滞しつつある新規開業に向けた投資の呼び水になるような補助についても、国は進めてほしいというのが私の意見です。リノベーションは短期的な事柄です。中・長期的な視点に立った新築を含めたハード面での設備投資にも、もう少しアンテナを張るべきではないでしょうか。
----観光業界の人材不足について、どのような対応をしていけばいいと考えますか。
人材はどう考えても不足しています。2019年の時点で既に不足していると言われていましたが、当時のホスピタリティー人材は約59万人でした。そこからコロナを経て約 46万人まで減少してしまった今、2019年から約13万人マイナスの状況を迎えています。2019年の段階で 10万人足りないと言われていたことを考えると、現在は単純計算で 23万人の人材が不足しているわけですから、それを補うための方策を打ち出す必要があります。
業界全体が働く人を呼び戻す取り組みを進めなければなりませんが、その中で外国人の人材をもっと積極的に受け入れていくべきでしょう。労働力に投資をしなければ事業がまわらなくなっているのですから、それは当然の動きとして進めなければならない状況だと思います。
観光業を含むホスピタリティー産業における外国人の人材については、目標値に対して 1.5%弱しか雇用できていないのが現状であり、他の業界に比べて著しく低くなっています。そもそも志望者数が少ないので、この業界に就職する意志がある外国人を増やすための取り組みをしていかなければなりません。また就職したいのだけれども、就職先を探すためのコネクションがない外国人をサポートする仕組みも求められるでしょう。