熱海の温泉地に建つ、都会の喧騒から離れ 「無為自然」に過ごす宿
宿泊産業の競争が激化し、ゲストのニーズが多様化しているいま、ホテルのマーケティングに求められている戦略は、とんがりをつくることである。とんがりで差別化し、そのとんがりに関心のあるゲストが集まる。本連載では、そんなコンセプトが際立ったホテルや宿泊施設を厳選して紹介し、それを支える秘訣を紐解いていく。担当するのは、立教大学観光学部で宿泊ビジネスを学ぶ学生たち。学生のピュアな目に、日本のホテルはどう映り、どう表現されるのか。
取材・執筆/立教大学観光学部 佐藤夕花・星田朔良 監修/宿屋大学 代表 近藤寛和
1200年以上前から養生の地としての歴史を誇る熱海。賑わいを見せる熱海の中心地を抜けた先に広がる閑静な奥座敷に突然その温泉宿は姿を現した。その名も「SOKI ATAMI」。「あるがままの自分を取り戻し、無為自然に過ごす」そんなコンセプトを掲げる素敵な宿。ストレス、迷う気持ち、肉体的疲労から解き放たれてゆっくりと養生ができる。我々はそんな温泉宿「SOKI ATAMI」の核心に迫った。「働いて溜まったストレス、迷う気持ち、肉体的疲労から解き放たれてゆっくりと養生していくことをお客様に提供したい」という思いを語る、蒲洋平エリアマネージャーにお話を伺った。
「古来日本の習慣としてある、温泉地に長逗留して温泉に浸かりながら、自然治癒力を高める療養を行う湯治を、いわば現代に適した形で表現した宿です」と語るUDS(株)の蒲洋平エリアマネージャー
「あるがままの自分を取り戻す、無為自然に過ごす宿」
----こちらのコンセプトには、どのような意味が込められていますか。
そもそも熱海という地は、昔から湯治文化がある土地柄です。本質としては、その湯治を通して、気張ることなくデトックス・リラックスして欲しいというのと、日々働いて疲れた体や、日常生活での迷う気持ちから解き放たれてゆっくりと養生していただくことを、お客様に提供したいという思いがあります。また、熱海の今まで積み上げてきた1200年の歴史から、ここは療養する場所であり、リフレッシュしていただくのに適した場所であると私たちは理解し、熱海の歴史と土地の良さを生かすことにしました。
SOKIスイート(撮影:浅川敏)。客室は、熱海湾を望む部屋や、奥座敷らしい緑や星空が望める部屋など、10タイプ全54室。
無為自然の体現と和漢
----「熱海」という土地の良さを生かしているのですね。先程「養生」という言葉が出てきましたが、この無為自然というコンセプトを支えている要素等はどのようなものでしょうか?
まず、自然のものをなるべく多用しているところですね。例えばスイートルームに使われている本小松石は、皇居の堀や墓石としてよく使用されていた高品質な石ですが、それ以外の場面での活用は多くないと聞いていました。私たちは地域の素材をホテルのデザインに取り入れることで、この本小松石の新しい魅力を皆さんに知っていただきたいという思いがあります。SOKIの入口においてある本来であれば廃材となるような木材や年代物の壺なども、それらを経年劣化として捉えるのではなく、昔からあるものや使われなくなったものなど、役目が終えたものが自然に還っていく姿をあるがままの美として捉えて、無為自然というコンセプトを体現していきたいと考えています。
また、和漢・漢方・薬膳という内側から体の調子を整える食事もコンセプトと絡めて体験いただくことで、無為自然を感じていただければいいなと思っています。
----熱海の地は温泉宿が多いイメージがあるのですが、実際SOKI ATAMIはこの熱海という温泉地でどのような差別化を生んでいるのですか?
熱海は温泉地ですので、あまり温泉を有しているということは強みになりづらいなと思っています。ですが、全客室に温泉があるということは、今このご時世において、ソーシャルディスタンスということでお客様にとてもニーズがあり、選んでいただける理由の一つになっています。
また、源泉が一つなので大浴場と客室の温泉をよりお楽しみいただくために大浴場には定期的に季節湯を採り入れています。女性大浴場にあるスチームサウナにも、季節によって異なるアロマの香りを取り入れたりと、様々な工夫をしています。
直線と間接照明を巧みに使ったスタイリッシュなレセプション空間