情勢が変化しても変わらない姿勢
----現在は新型コロナウイルスの影響で殆ど海外のお客さまがいらっしゃらない状況だと思うのですが、元々、富士山周辺は日本有数の観光地になっていたかと思います。ふふ河口湖はインバウンドの影響を受けていたのでしょうか。
ふふ河口湖はふふシリーズの中で初めてインバウンド問題に直面しました。コロナ以前は多くの海外のお客様にもご利用いただいていたので、様々な問題が生じていました。特に、コミュニケーションでの課題が多かったように思います。日本語の場合、細かいニュアンスで表現することが出来るのですが、他の言語となると、難しい部分がありました。
----インバウンドの方への対応でも、やはり、コミュニケーションという点で人が関わっているのですね。
そうですね。海外のお客さま・日本人のお客さまに拘らず、お客さまとのコミュニケーションの中で常に気を付けていることはノーと言わないということです。如何にノーと言わずにノーと言うかということなのですが、ノーと言われた気がしないという点が重要な点だと思います。「これは出来ないのですが…。こういうことであれば出来ます!こういうものがありますが如何ですか?」というように、必ず、提案で終わるようにしています。
また、非常に難しいことではあるのですが、日本人のお客さまに対しては“お客さまの目的を察する”ということも実践しています。お客さまとの距離感を短時間のコミュニケーションの中で“察する”。二人の世界を大切にされているお客さまに対しては、出来る限り、食事の説明は簡潔にする。お話がお好きなお客さまに対しては積極的に話し掛ける。日本人のお客さまは、海外のお客さまと比較して、言葉にしないことが多いので、“察する”力は非常に重要になりますね。
私自身、ホテル業が初めてなので、必死になっています(笑)。最も好きな業務はチェックアウトで、お客さまから「来て良かった」という一言を頂く瞬間が嬉しいです。他の部門のスタッフが頑張っていたことも分かっているので…。
----お客さまから直接的に気持ちを聞くことが出来るのはサービス業の良いところですよね。
そうですね。ホテル業は濃いサービスなので、特に、喜びが大きいです。食べる・入浴する・寝る、全てが詰まっているので、お客さまと接する時間が必然的に長くなります。レンタル会社もサービス業でしたが、接客の時間が短いんです。例えば、映画を借りて家で映画を見るとします。泣いたり笑ったり怒ったり元気が出たりすると思いますが、お客さまの姿を見ることは出来ません。一方で、ホテル業では喜ぶ姿を目の前で見ることが出来ます。その分、お客さまの喜びに繋がるようなサービスを提供しなければならないと思っています。
レストラン「山のは」。薪と溶岩石を使った日本料理(9品のコース)を提供。料理提供の演出にも工夫がされている
----先程、コロナ禍でのインバウンドの変化を伺いましたが、元々、ふふ河口湖はプライベート空間を大切にしている宿だと思います。コロナ禍で変化したことはありますか。
根本的な部分は変わっていないのですよ。お客さまから「コロナ対策が凄いですね」という声を頂くのですが…(笑)。欧米のホテルはプライバシーを重視しています。一方で、日本の旅館は外出している間に布団を敷いておいてくれたりと距離感が近い感じがしますよね。痒い所に手が届くという点ではおもてなしを感じる部分だと思います。ふふ河口湖は、プライバシーとおもてなしのバランスを取り、両方の良い部分を表現したいと考えています。このことがスモールラグジュアリーリゾートを謳うふふ河口湖の原点であるかもしれません。
ただ、スタッフ全員に同じ意識を持ってもらうことは容易ではないと思います。しかし、私の思いを、その都度その都度、スタッフに伝えることで実現することが出来ると思っています。普段、私は自分がすれば済むことを敢えて他のスタッフにお願いするようにしています。例えば、レストランでナプキンが落ちていることに気付いた際は「お客さまに新しいナプキンをお渡しして来て下さい」とお願いするんです。新しいナプキンを渡しに行ったスタッフはお客さまからの感謝の気持ちをダイレクトに受け取ることが出来るので、同じような状況に遭遇した際、自分自身で動くことが出来るようになります。実感してもらうことが1番だと思うんです。地道に続けていくしかない訳ですが、積み重ねることで、私の周りに同じ意識を持ったスタッフが増え、最終的には全員が気持ちを共有した状態になっていると思います。
もちろん、スタッフ一人一人の考え方も尊重しています。ふふ河口湖にはお客さまとの会話にマニュアルはありません。お客さまにオススメを聞かれた際には自分自身が良いと思ったものをオススメするようにと言っています。他のお客さまに迷惑を掛けないという判断基準を設けているのですが、判断基準さえ設けていれば、自由な方が良いと思うんです。自分が良いと思うものを勧める時と他人が良いと思うものを勧める時とでは温度感が違うんです。短い時間の中で、どれだけ、お客さまに寄り添うことが出来るかどうかは心の底から思っているかどうかだと思っています。
----ホテル業以外の知識も有している田村さんが、ふふ河口湖で、今後、行いたいことはありますか。
お客さまの声を深く深く掘り下げたいです。より一層、お客さまに満足して頂けるようにしたいですね。
ハーブなどの50種類以上の植物に囲まれた「テラス」。夜になると薪に火が灯される
【取材後記】
インタビュー中、田村さんは「お客さまに恵まれて、お客さまに育ててもらって…」という言葉を口にされていた。田村さんは常に謙虚で、ほかのスタッフと同じ目線に立ってふふ河口湖を見ていた。田村さんの人柄が、お客さまやスタッフ等、周囲の人々に伝わっているのだろう。スタッフが楽しそうに働いている姿は非常に印象的であった。ホテル業での経験がなかったからこそ、今までのホテルとは一線を画すふふ河口湖というホテルが形作られているように思う。細部の細部にまで拘り抜く姿勢がホテル全体に反映され、コンセプトである「境界のない森のリゾート」が実現されている。ただ、決して、景観や施設といったハード面だけでコンセプトが満たされている訳ではない。根底には、スタッフ一人一人がコンセプトを徹底し、個を尊重しつつも同じ気持ちでお客さまに接するというソフト面、つまりは、人の存在がある。ふふ河口湖は“お客さまの目的を察する”という簡単には掴むことの出来ない感覚を基に今日もスモールラグジュアリーリゾートとしてお客さまを迎えている。
【施設概要】
ふふ 河口湖
所在地:山梨県南都留郡富士河口湖町河口字水口2211−1
客室:32室
付帯施設:レストラン 1、バー 1、ロビーラウンジ、スーベニアショップ、大浴場
事業主:ヒューリック株式会社
経営:ヒューリックふふ株式会社
運営:カトープレジャーグループ
設計:株式会社竹中工務店東京本店設計部、TKN・ARCHITECT(デザイン総括)
施工:株式会社竹中工務店東京本店