ニューノーマルを契機に考え抜くホテルが提供する価値とは何か
----ビジネスだけでなく学校もリモート全盛とこれまでの常識が一変。サービス業の変革も不可欠な時代となりました。
確かに「リモート」で事足りる風潮ではありますが、なんでもリモートで考えればいいという訳ではなく、その背景にある個々のニーズと価値観の変化を的確にとらえて具現化して自分たちも変化していく、その積み重ねが大切だと思います。コロナ前の状態にいつ戻れるか、という議論をするのではなく、自分たちがどう変わっていくかを問うことで「自己変革できる会社」になりたいというのが、私の基本的な思いです。特に、ホテル事業の自己変革には、三つの視点から考えることが必要です。
第一には、「新しい価値をどう広げていくのか」というチャレンジです。東急としてのブランド力はある。次に提供価値のすそ野を広げていくには、いわゆるミレニアル世代やそれに続く世代を意識せざるを得ない。例えば、横浜と川崎のライフスタイルホテルを REIブランドで展開し、個性を際立たせたホテルづくりにもチャレンジしました。また、今後の新規開業の計画(2022年度の京都・粟田でのプロジェクト、23年度に計画している新宿歌舞伎町のプロジェクトなど)が、ホテル事業としてだけでなく、多世代にわたる観光産業の起爆剤になると確信しています。
第二には、今後の取り組みに、新たな技術をどう取り込んでいくのかの視点です。スマホでのチェックインやスマホPOSなどは導入のめどが立ちましたが、今後も、世にある様々な技術と、サービスをどう組み合わせていくのかが課題です。DX化の成功のカギは、新技術に取り組む職場の風土改革にあると考えます。その改革の基本は、経営者の積極的な関与と職場の人材力です。これからのホテル事業においては、人材に対する投資こそが競争差別化のカギであり、中長期的に考えるとその投資リターンは大きい。また、今後もホテル事業が若い人たちにとって魅力ある産業であり続けるためにも、人材投資は不可欠です。
第三には、ホテルオペレーターとしてのスキル向上の視点です。運営受委託方式にせよリース形態にせよ、オーナーに選んでもらうためのオペレーションスキルがさらに問われる時代になるということです。今後、ホテルは長期にわたり安定して収益が得られる不動産であるという認識も変わると思います。アフターコロナにおいては、オーナーサイドとの信頼関係をさらに磨くことで、双方の視点から事業としての価値を上げていかねばなりません。
----「自己変革」できることがニューノーマルの御社のめざす姿とのことですが、実現のためにどのような人材を求めていきますか。
ホテルに就職するというと、第一にお客さまとの接点、ホスピタリティーマインドの重要性を思い浮かべますが、サービス向上ばかりでなく、人事や財務、不動産の知識も重要です。会社としては、ホテルのオペレーションを通じて、広く事業経営を学んで欲しい。さらには、常に新しい分野に興味を持って、その学びを仕事に活かせる柔軟な人材が欲しいと思っています。日本の企業には、自分のやりたいことを宣言して、積極的に企画提案し、実際にやりぬく人材力こそが必要です。それには年齢も性別も国籍も関係ありません。
これからの時代、人材の多様性(ダイバーシティ)は特に重要です。ただ、多様な人材を集めるだけではだめで、その人たちの個性を生かし、チームでまとめ、創意工夫を促す。実はこのことが難しいのです。当社も、新卒・キャリア採用にかかわらず、社員のキャリア形成を通じて、イノベーションを起こせる企業風土でありたいと思います。
-−−−コロナ収束後の予測値として、2021年の業績目標を教えてください。
当面の目標は、現状の最低水準から早期に脱却し、構造改革によって損益分岐点を下げ、事業として自立することです。私のミッションとしては、今後 2年間で、稼働を以前の水準まで戻して営業利益段階で成果を出し、その後は継続的に利益を生み出せる体質に整えていくことです。
東急は生活者視点を大切にする企業グループとして、環境や健康など社会的な共通価値を重視する街づくりを進めてきました。これからも東急ホテルズは、グループのなかで重要な役割を担い続けます。アフターコロナでも、新たな生活価値を作り出すことで、みずから街やマーケットを変えていくことのできる「強み」を打ち出していきたいと考えます。
例えば、「tsugi tsugi(ツギツギ)」という定額制回遊型住み替えサービス※。単に割安な宿泊としてではなく、長期滞在での体験価値を高めることができる新規商品です。チェーンホテルだからこそ提案できる魅力があり、地元でしか知りえない情報を共有することもできます。ホテルにはこうした新たな価値を作り出せる余地がまだある。実は、このサービスは東急(株)の「社内起業家育成制度」提案から生まれた商品で、ラヴィエール事業のお別れの会も同社の社員が組み立てたものです。今後もホテルの経営資源を活用できる商品を創造していきたいと思います。
ホテル事業の最前線でも、お客さまを迎えるだけではなく、ケータリングや外販など、外に出向いていく「外部化」が進んでいます。「食べる、住まう」の外部化をホテルが担うと考えれば、ホテル事業の可能性はまだまだ広げられる。
「食の東急ホテルズ」として、料飲部門にもさらにどのように付加価値をもたらしていけるのか、この分野でもグループやチェーンのシナジーを生かした新たな提案を実現していきたいと思います。
※「tsugi tsugi」直営の39施設(東急ホテルズ35施設、東急バケーションズ4施設)を対象にした定額制回遊型住み替えサービス。先行体験を4月29日〜実施した