ただしここで重要なのは、この指針は
コモンセンス(=常識的な共通認識)
であること
先ほど、これは「宿泊業に対して一般的な観点から作成した指針」であると申し上げました。つまり、これは「一般的な国民は、できればこれくらいはして欲しいな」と考えていると言うことも可能である、と理解します。そう考えれば、もちろんこれは可能な限り実施した方が良いことは異論がありません。
まずは全項目確実に実施すべき
理由を考える
まず、仮にこの指針を全項目確実に実施する場合には、以下の視点に基づくものであると考えられます。逆に言えば、以下の四つの観点がいずれも不要ということであれば、もしくは費用対効果を考えてそこまで必要がないと考える場合には、この指針を全項目確実に実施する蓋然性はないものと思料いたします。
①積極的集客に使うパターン(広報・マーケティング上の視点から)
②消極的集客に使うパターン(広報・マーケティング上の視点から)
③万が一クラスターが発生した場合の言い訳(責任回避の視点から・これで発生しても仕方ないと言うための措置)
④地域社会による宿泊業への白眼視の忌避(域内レピュテーションリスク回避の観点から)
いったい誰得?
全項目確実に実施するか否かの判断は、まずはそれを実施することを誰が望んでいるのか? という貴館のターゲットを考えることからはじまります。ターゲットは大別
して以下の2 種類に区分されると考えられます。
◦感染症対策防疫措置を強く望む層(価格プレミアムを多かれ少なかれ認める):
富裕層全般・高齢者層全般・既往症保持者・中国韓国台湾以外のインバウンドゲスト・ホワイトカラーエクゼクティブ
◦感染症対策防疫措置など大して気にしないから宿泊単価は安い方がよいと考える層:
現場仕事( 宿泊単価の廉価圧力を受けている)・低所得者層・中国韓国台湾のインバウンドゲスト
価格設定の観点からも、どちらをターゲットとするかをはっきりした方が、戦略が明確になることは言うまでもありません。なお、前者は競合対比高価格での販売が可能となり、後者は競合対比低価格の販売となってしまいます。
忘れてはならないコストアップ要因
防疫機器薬剤等費用増加、接客時間増大、清掃時間増大など、感染症対策防疫措置を実施すると想像以上にコストがかかり利益を圧迫するため、感染症対策防疫措置を実施することと客室単価を高めに売ることは同義であると考えた方がよいと思料します。
さらに非接触型ルームキー新規導入や、QR コード型自動チェックインチェックアウト機に代表される設備投資まで視野に入れた場合は、全部で数千万円前後の投資を視野に入れた方がよいかもしれません。このコロナにより売り上げが下がっているときに、この規模の設備投資は事実上不可能に近いと思料します。
一番大切なことは
「当館でやっていることを
具体的かつ明確に告知すること」
まず、現代は「うそがバレると大変なことになる世界」なので、やっていないことをやっていると言うことは絶対に避けた方がよいと考えます。事業の直接死因になる可能性があります。
実際にどんな感染症対策防疫措置を実施しているかということよりも、具体的にやっていることを明確にプレゼンテーションすることの方が数倍大切です。
プレゼンテーションは遠慮がちではNG。「業界団体における『宿泊施設コロナ対応指針』に準じて」などという表現では誘客に対しては全然効果がありません。「完遂しております」など完璧にやっている表現をしないとゲストは動きません。
同時に具体性が重要です。「衛生管理を徹底」「客室の除菌・消毒を徹底」「アルコールスプレーをご用意しております」などの抽象的なアピールではなく、どのように徹底しているのか? どのように清掃・除菌・消毒しているのか? どこに設置しているのか? など、衛生管理体制を具体的に示すことで、はじめて安心に繋がります。
感染症対策防疫措置を実施していることの準公的保証機関などの保証があればなお状況は好転すると考えます。
なお、マーケティング的観点からは、記載方法として「コロナ対策プラン」という名称のプランを作って販売することはお勧めしません。これは「感染症対策として消毒を徹底しているプラン」なのか「コロナ起因のステイホームによる居場所/仕事場所/感染隔離等の理由によるプラン」なのか判然としないためです。さらに、前者だと理解した人は、当然「通常の客室は感染症対策として消毒を徹底していないで販売しているのか」と理解してしまう恐れが多分にあり、かえって販売の妨げとなってしまう可能性が高いからです。
以上、「宿泊施設コロナ対応指針」の扱いと実施について、具体的に解説してきました。
しかし自館でどうするのか、最終的に決めるのは経営者の戦略的判断です。
正解などない世界ではありますが、少しでも利益につながるご判断を祈念してやみません。