当たり前かもしれないが、お客さまが新しさを感じるのは、商品やサービスを通じてとなる。朝食が変わった。接客が明るくなった。部屋のしつらえがよくなったなどである。だからこそ、日々の仕事の中に新しくするための仕事が入っていることが重要なのだが、時間がない、それは〇〇部門の仕事だ、などの理由から、何かを新しくするという行為はおざなりになりやすい。
旭山動物園は、いつも新しさを醸かもし出している。新しさの源泉には、新しくする時間の確保と、大義のもと次のイメージを今日の仕事の中で考え続けていることがあげられる。旭山動物園の存在意義は、野生動物の素晴らしさを伝えて、環境に配慮する人を増やすことにある。飼育員の方々は、自分が担当している動物の行動展示をつくり、マイクを持ってワンポイントガイドを繰り返していく中で、お客さまの反応を観察している。
どこが伝わっているのか。何をどうすればもっと伝わるようになるのか。飼育の仕事をしながら、伝え、次の行動展示をイメージしていくという一連の流れができあがっているのだ。そして、春と夏、夏と秋、秋と冬、冬と春の間に、まとまった時間をとって、次の季節にぴったりの行動展示に新しさを加えていく。自分たちの逸品である「行動展示」を究極の逸品に仕立てていくアクションが、戦略と組織をつなぐリンケージとして、しっかりと機能していくから変化が続くのである。
彼らにとって商品・サービスとは、理念や存在意義、企業で言うところの戦略を具体的にお客さまに示していく媒介なのである。この媒介を磨いていくために、一人二役三役で、分業発想に埋没することなく、創意工夫を続けているのだ。
本コラムで取り上げてきた菊乃屋では「菊乃家アクティビティ」が自分たちの存在意義「宮島を盛り上げる存在になる」を、今日ここで具現化していくための媒介として、みんなで磨いている。「宮島を盛り上げる存在になる」は、単なるスローガンでなく、戦略であり、存在意義であり、追い求めるものなのだ。みんなで追い求めているからこそ、夏の縁日という企画の人の発案を、施設担当の人が射的をつくりパットゴルフをつくり、接客を担当している人がお客さまのお子様と一緒に遊ぶことで、本当に楽しい縁日としてプロデュースができるのである。
存在意義を端的に表す商品・サービスを定めて、部門を超えて、みんなの力を合わせて究極の逸品に仕立てていく。抹茶教室の一アイテムであった菊乃家アクティビティは、現在、宮島の観光資源活用、もみじ饅まんじゅう頭の体験教室などを含めて、約20種類のサービスに発展している。
自分たちの一品を逸品に、そして、その逸品を究極の逸品に仕立てる。変化を味方にする戦略と組織の間には、究極の逸品づくりが効いていくのだ。