「消費者のせい」VS「メーカーのせい」で売れないというズレに違和感を抱いていた
島田 問天という会社を通じて、竹久さんが取り組んでいる事業活動について教えてください。
竹久 大学卒業後、私は 17年間銀行員として勤めてきました。後に企業再生ファンドが出資したグルメ関係のサイトの会社に役員として出向しました。
グルメサイトの仕事を通じて飲食店自体やそこで扱っている食品を売り出していかなければならない中で、「とにかくメディアへの露出を増やせばものは売れる」という考え方に対して疑問を感じていました。両極端の考え方において、一方には「いいものを作ったのに売れないのは、消費者が分かっていないからだ」というメーカーサイドの嘆きがあります。他方には「一生懸命に広告宣伝を打っているのに売れないのは、いいものを作っていないメーカーが悪い」という PRサイドの意見がある。そのズレはちょっと違うのではないかという問題意識を、私は抱いていたのです。
そこから当時所属していた産業改革機構で、地方の蔵元を再生する方法を考えるようになりました。そんなときある方から「一度会ってほしい人がいる」とお声掛けいただき、紹介されたのが問天の酒を造っている薄井商店の薄井朋介社長でした。
島田 長野県の薄井商店ですね。
竹久 長野・大町市にある薄井商店の酒蔵を訪ねると、なんとも素朴な表現で「一生懸命に特徴を出そうとしている」と語ってくれました。契約栽培農法で、こういう水を使って日本酒を造っているのだと。ただ残念ながら、それだけでは「皆さんそうやっていますよ」で終わってしまうわけです。でも、そこから話を聞けば聞くほど、さらに独自のストーリーを付けられる可能性があると私は思ったのです。
おいしくない酒など存在しない今のマーケットで差別化するために必要な要素は何かと考えると、蔵元の皆さまは「遠心分離機にかけた」「0.7%まで磨いた」といった技術的な方向に走りがちです。それが消費者の共感を得られる価値観かと言えば、おそらく違うでしょう。
薄井氏に話を聞いていくと、酒蔵のある大町という土地は平安時代には伊勢神宮の荘園であり、伊勢神宮にお供えする米を作る田んぼがあったところであることが分かりました。そういった土地には神さまが降り立って「私にこの土地を供えなさい」というお告げがあり、土地を寄進したという言い伝えがたいてい存在します。
最終的に私が目指している日本酒業界の姿は「神さまが降り立った田んぼの米で造った酒」といったストーリーを伝えることで、その土地に観光客が訪れる流れを創ったその先にあります。