ホテルにはバーがあった方が良い。バーは地域のコミュニティーを形成する社交場であり、今日では訪日外国人ゲストが目指す観光アイコンにもなり得る。しかし、どんな場所にも、そしてどんなホテルにもバーが機能しているわけではないのも確かだ。
バーの在り方も変わってきた。卓越した商品や技術、接客でゲストをもてなすばかりがバーテンダーの仕事では、むしろないのかもしれない。社外のバーオーナーをホテルのチーフバーテンダーに起用した掛川グランドホテル(静岡県掛川市)は、特殊なケースと言って良い。上田武総支配人にその真意を聞けば、ホテルにとってのバーテンダーの存在にも多様性が生まれていることが分かる。
街場のオーナーバーテンダーがホテルのチーフバーテンダーを兼任するというのは、実に夢のある話だと思います。ホテルとしてはどのような経緯でそれを決断したのでしょうか。
掛川グランドホテルの上田武総支配人は、ホテル経営会社、KTSホスピタリティの執行役員も務める。関西エリアでホテルの開業に携わってきたキャリアで、地域それぞれが放つ魅力を見極める審美眼を持つ
掛川は車社会の街です。百貨店もないので、文化や芸術などさまざまなものがアップデートされるにはホテルが核となる必要があると考えています。そして掛川グランドホテルにはラウンジはありますがバーはありません。それでも足を運んでくださるお客さまにお応えするには、本物が必要です。
篠原さんは立派なお店をお持ちになっていて、本物を提供されている。ホテルも篠原さんのバー「RINGOKAN」も、もうけるのでなく普及させたいという思いがあります。バーという文化を、そしてホテルとして、街としてもより洗練させたいと考えてお互いが協力する運びとなりました。
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何かきっかけになったことがあったのでしょうか。
掛川には、普通にしていてもお客さまが来てくださらないようなところがあります。「普通」という評価がないんです。おいしいか、おいしくないか。良かったか、悪かったかなのです。
一方で、掛川城の天守閣の真下でビアガーデンをやったりすると、新幹線に乗ってやってくるお客さまの姿もあります。「天守閣の下でお酒を飲めるのはここしかない」とおっしゃっていた話もヒントになり、何かを変えていけたらと思っていました。
お酒も、夜にバーで飲むというだけではなくなっていると感じています。活気があふれて、会話が生まれることもお酒の良さですよね。ホテルでも、会話があるバーが生き残っています。