2018年の総生産量は4億6400万本。フランスのシャンパンやスペインのカバを大きく引き離し、世界で最も多く飲まれているスパークリングワインがある。イタリア最大のワイン産地でもあるヴェネト州とその東、オーストリアとスロベニアに接するフリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州で造られる「プロセッコ」だ。
後編(2019年7月12日号)を先に見る
年間6億本に及ぶ圧倒的な生産量
世界的に酒類市場の縮小が懸念される中、スパークリングワインのマーケットは堅調だ。イタリア、フランス、スペインの3大生産国ばかりでなく、チリやオーストラリア、米国などのニューワールドや英国、メキシコなども存在感を増している。こうした中で、シャンパンは2018年に3億6200万本、カバも17年に2億5200万本と生産量を伸ばしたが、プロセッコの生産量はそれをはるかに凌駕する。プロセッコの生産量4億6400万本とは、主に平地の畑から産するブドウをもとにしたプロセッコDOCエリアだけのものであり、これに山岳地帯のプロセッコ・スペリオーレDOCG(Conegliano Valdobbiadene Prosecco Superiore DOCG)が生産する9300万本、アーゾロ・プロセッコDOCG(Asolo Prosecco DOCG)の1000万本ほどと合わせると6億本に及ぼうかという勢いだ。さらに本国イタリアでは、これまで認可されていなかったロゼタイプのプロセッコの登場に向けても議論が進んでいる。
文字通り、“世界で最も愛されているスパークリングワイン”の人気はどこにあるのか。七つの側面から、その魅力を探った。
1.プロセッコはフレッシュである
プロセッコは主要ブドウ品種「グレーラ」を85%以上使うことが義務付けられている
プロセッコの魅力は、その香りや味わいの親しみやすさにある。華やかでフレッシュ、受け入れやすい香りと味わいは、全体の85%以上と規定されているグレーラ種のブドウに由来する。プロセッコのパーソナリティーを形成するグレーラを中心に、ピノ・ネッロ(ピノ・ノワール)やシャルドネといった国際品種、ヴェルディーゾやビアンケッタ・トレヴィジャーナ、ペレーラ、グレーラ・ルンガなどの土着品種を用いて良いことになっているが、今日ではグレーラ100%によるプロセッコが増えている。
348あるワイナリー(スパークリングワイン生産者)が辛口タイプのブリュット、1ℓ当たりの残糖量12~17gのエクストラドライをはじめ、甘さを感じるドライ、デミ・セックと各種を生産しているが、プロセッコにおけるスパークリングワインの63%はエクストラドライだ。残糖がもたらすのは、ほのかな甘みよりも味わいの奥行きだ。
香りはレモンやグレープフルーツなどの柑橘、アカシアや藤といったフローラル、リンゴや梨、桃のほか、トロピカルフルーツのニュアンスに大別され、プロセッコ特有の心地よいアロマはメーカーごとの個性があることが分かる。
果実味と酸味のバランス、フレッシュさはプロセッコの真骨頂だ。マルティノッティ方式(シャルマ方式)と呼ぶタンク内二次発酵による製法で仕上げたワインには、ブドウそのものの香りと味わいが鮮やかに描かれる。ほのかな甘みを感じた後に味わいを引き締める酸が続くものがある一方で、さわやかな酸に始まり、残糖の甘みが味わいのふくよかさと長い余韻をもたらすもの、また、後味のかすかな苦みが食との親和性を感じさせるものなど、ほぼ同じ品種、同じ製法の中にも食やシーンでチョイスは無限にあると言って良い。およそ11度とワインとしては低めのアルコール度数も、食前の1杯だけではなく2杯、3杯と重ねて飲める要素だ。
2.プロセッコには歴史的価値がある
プロセッコの歴史はスパークリングワインの歴史とも言える。
その歴史は紀元前2世紀の古代ローマ時代にさかのぼり、現在のフリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州の州都トリエステの近くにあった、プロセッコと呼ばれた街がルーツとされている。紀元前1世紀には、地域のワイン生産に関する最初の記述が、そして1382年には古代のプロセッコと考えられる内容が『博物誌』に残されている。1754年には詩人のアウレリアーノ・アカンティのワイン頌詩『イル・ロッコロ』でプロセッコの名が初めて登場し、その魅力がたたえられた。プロセッコがフリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州とヴェネト州で造られていることもここに記されている。
数字で見るプロセッコ(2018年)
1868年に設立されたソシエタ エノロジカ トレヴィジャーナ社がプロセッコにスパークリングワインとしての地位を見出し、その価値はさらに高まった。1876年に創設されたコネリアーノ醸造学校はイタリアで初めてのワイン教育機関であり、この時期のイタリア北東部のワイン造りはアントニオ・カルペネ氏とジョヴァンニ・バッティスタ・チェルレッティ氏によって支えられたという。スパークリングワイン、プロセッコの誕生は、カルペネ氏の直観と天才的創意、そしてトゥッリオ・デ・ローザ氏の貢献の賜物とされている。
イタリアで大樽による二次発酵をフェデリコ・マルティノッティ氏が発明したのは1895年。タンク内二次発酵の呼称「メトー ド シャルマ」(シャルマ式)は、1910年にフランス人のユージン・シャルマ氏によって洗練されたものと解釈され、プロセッコ生産者の中には「メトー ド マルティノッティ」(マルティノッティ方式)の呼称にこだわる者も少なくない。
スパークリングワインに多く用いられるこの方式は、この種のワインの生産効率を高めただけでなく、二次発酵のワインをフレッシュに楽しむことを可能にした。この特性を高めるために、大型のオートクレーブ(アウトクラーヴェ)と呼ぶ加圧タンクで最短でも30日間かけてベースワインを再発酵させる。二次発酵に費やす期間は生産者によって異なり、3カ月から半年間を費やすメーカーも存在する。
プロセッコはこうして、そのアロマや心地よさをもって最大の個性であるフレッシュネスを表現し、イタリア国内はもとより世界の消費者に愛されるワインとして成長している。
3.プロセッコは常にアクティブだ
プロセッコDOCはスポーツ協賛でも存在感を放つ。写真はプロセッコDOCのヨットチーム
プロセッコは明るい飲み物だ。昼夜にかかわらず、それはある時はビールのように、またある時は清涼飲料のように、飲用シーンを限定せずに親しめる。プロセッコDOCの攻めのブランディングは、料飲ビジネスの枠にとどまらない。各種スポーツやイベントへの協賛、世界各地で行なうプロモーションイベントの開催で、プロセッコDOCの知名度アップやブランドイメージの拡張に努めている。特にスポーツへの協賛はイタリアで人気の女子バレーボールや自転車競技、オートバイレースの「Superbike World Championship」や「MotoGP™」、ヨット競技、さらにアルペンスキー世界選手権など多岐にわたる。また、米国では今年も6月にかけて「National Prosecco Week」が開催され、期間中には消費者向けのプロモーションイベントが行なわれた。
こうした活動の一環として、プロセッコDOC保護協会が日本で行なうレストランプロモーションが3年目を迎える。今年も8月に開催されるこのキャンペーンは、イタリア料理に限らず幅広い料飲分野の参画で、プロセッコの親しみやすさとそこに隠れたこだわり、個性が広がる、伝わることが望まれている。欧州各地でも、レストランのワインリストには常にプロセッコの存在がある。それは特別な日のシャンパンに対して、日々の生活のすぐそばにある身近な友のような在り方なのかもしれない。日本でも和食店や居酒屋、バル業態やバー・ラウンジでも、プロセッコが広がりを見せることに、現地生産者からも期待が寄せられている。
4.プロセッコは食に寄り添う
東京・大井町のイタリアン(NIDO)がプロセッコを積極的に販売するのも、食との親和性だという(後編参照)
ワインは常に食とともにある。中でもプロセッコは、ドリンクシーンや食卓におけるオールラウンダーだ。ランチ時に軽く1、2杯のプロセッコ。カンパリやアペロールによる「スプリッツ」カクテルとともに過ごすアペリティーヴォではプロシュートやチーズ、バッカラマンテカート(干しダラのペースト)に。カルパッチョや魚介のフリット、トマトやオイルベースのパスタにもプロセッコは寄り添う。
プロセッコDOCの全生産量の83%はスパークリングだが、フリッツァンテ(微発泡性ワイン)も16%の割合で、またわずかだが、スティルワインも造られている。日本市場では「プロセッコ=スパークリングワイン」だが、欧州の小売市場ではフリッツァンテの陳列も多く見られる。強い発泡を望まない消費者へのアイテムも、プロセッコは持ち合わせている。そしてプロセッコDOC保護協会本部の所在地であるヴェネト州トレヴィーゾが、かのティラミス発祥の地であることも踏まえると、もはやプロセッコは食前から食後までをフルカバーする存在と考えることもできる。
プロセッコは自在に扱える存在だ。明るい時間からポジティブに、ディナータイムでも日常を優雅に彩るこのワインを、本格的な夏に向けてゲストへの提案カードに加えてはどうだろうか。
プロセッコDOC保護協会(CONSORZIO DI TUTELA PROSECCO DOC)
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