さまざまな料理人がいる中で、一人一人が持つ苦悩と挑戦の数々の物語がある。ホテル・レストランの総料理長が食の業界や若手の料理人に向けて伝えたいことは何か。これまでの長い経験の中で、どのようなことに悩み、どのようなことを考え、どのようにチームを創り上げてきたのか。インタビューを通じて後継者育成に向けた取り組み、マネジメント手法などを探るシリーズ「料理人の教育論」を月一連載(第4 週号掲載)でお届けする。
飯島 淳(いいじま・あつし)
1965 年、埼玉県出身。大阪・あべの辻調理師専門学校卒業後、フランス・リヨンをはじめヨーロッパ10 カ国で研鑽を積む。帰国後は東京・六本木の「ビストロ・ロティユース」を皮切りに、都内のフランス料理店やホテルに従事。バルセロナオリンピック強化選手の料理を担当するなどスポーツにも関わる。2009 年にはホテルマネージメントインターナショナル㈱が運営する調布クレストンホテルの料理長に就任し、現在はグループ全体の調理部門を統括している
経営にかかわることは料理人
としての義務であり使命である
―さまざまなタイプの宿泊施設の調理部門を統括する上で、どのようなことを心掛けていますか。
料理長として、また、料理人としての私の使命と役割は、安心と安全な料理を提供することです。
会社企業において事故は絶対に起こしてはなりません。事故は会社経営に大きな影響を与えます。
私たちの仕事には全従業員の人生がかかっていると考えています。
これが企業人として調理を担当する第一義です。
―飯島総料理長が料理人に求めることとは。
ひところのグルメブームは去りましたが、テレビや雑誌で紹介された有名料理人の店に行列ができるという光景はいまだ目にすることが多いですね。
そういう店に足を運んでみると、テレビや噂で聞いた情報とは印象が違うことに驚かされることも少なくありません。
そうした店舗のほとんどが経営は人任せで、人の管理もせず、どんぶり勘定の甘い経営感覚になっていることが多いように思われます。
それは料理の腕は一流でも経営者としては必ずしも一流ではないということではないでしょうか。
翻って、自分自身はどうだろうといつも考えています。
例えば「今月は仕入れや原価率がオーバーしたが仕方ない」、「人件費がかかり過ぎた、あるいはまたスタッフが辞めてしまったがまた募集すればよい」、「皿を割ってしまったが来年度の予算に入れればよい」という感覚が当たり前になっていないか。
すばらしい会社に恵まれ、甘い経営感覚になっているのではないかと。
私は、料理人は調理の技術を磨くことだけに注力するのではなく、経営的な観点も忘れずに持つことが重要だと考えています。
それはホテルのような大きな組織でも同じで、自分がオーナーだったらどのようにすべきかを真剣に考えるべきなのです。すべての調理スタッフが同様の意識を持ってほしいと思っています。