日本酒造組合中央会認証「日本酒スタイリスト」として精力的に活動を続けるタレントの島田律子氏が、日本の伝統文化、日本酒の魅力を深く伝えることで、海外からのお客さまをおもてなしするホテル、レストランの力を向上させるためのヒントをお届けしていく本連載。今回は山形県天童市で130 年日本酒を造り続ける出羽桜酒造株式会社の代表取締役社長、仲野益美氏にご登場いただいた。
出羽桜が掲げる五つのポリシー、「地元でしっかりとした市民権と存在感のある酒」「圧倒的大差のある分かりやすい品質」「お客様の手の届く適正な価格設定」「他の酒の犠牲の上に立った吟醸酒でないこと」「利益の社会還元」を礎に地元からの支持を大切にしながら、次世代にバトンをつなぐために世界のマーケットを視野に入れた発想で取り組みを積み重ねる仲野氏の情熱。オータパブリケイションズ代表取締役の太田進を交えた鼎談の第3回をお伝えする。
■プロフィール
島田 律子(しまだ・りつこ)
島田 律子(しまだ・りつこ)
スマイルブリュー カンパニー代表・タレント・日本酒スタイリスト(日本酒造組合中央会認証) 日本酒の魅力を伝える講演・イベントの司会や出演など、年間100 本以上をこなす。TV 出演や雑誌などへの執筆も多く、そのエンターテイメント性の高さと分かりやすさから、ファンやリピーターが多い。飲食店や百貨店の売り場プロデュースの依頼も多く、NAGAE +『TRAVEL CHOCO』など酒器を始めとした商品開発や、女性ならではの視点から日本酒の美容・健康効果に着目。日本酒美容を取り入れた日本酒美容コスメ『MAIDEALE』をプロデュース。
仲野益美(なかの・ますみ)
1961 年山形県天童市生まれ。84 年東京農大農学部醸造学科卒業。86 年家業の出羽桜酒造㈱入社。2000 年同社社長に就任。東京農業大学客員教授、東京大学大学院非常勤講師、山形県酒造組合会長、日本酒造組合中央会海外戦略委員長、一般社団法人ミス日本酒顧問、山形県ブランド特命大使などを務める。入社以来、毎年大吟醸造りを担当し、今年で31 年を迎える。全国新酒鑑評会、東北清酒鑑評会の結審審査委員など歴任。
オーナー自身が製造にかかわることのよさは、
ランクを落とす決断ができるところにある
島田 酒造りの現場における人材面について課題はありますか。
仲野 オーナーである私自身が製造にかかわれる点が、出羽桜の製造面での特徴となっています。私は毎年、大吟醸を必ず造っています。オーナーの仕事がありますからすべての工程で常に張り付いているわけにはいきませんが、大吟醸の麹造りの2週間は必ず泊まり込みます。
各種コンクールに出品する大吟醸は、6人の人間が1本ずつ担当しています。東京農業大学、早稲田大学、弘前大学、上智大学、京都大学、東北大学など、製造の現場には優秀な大学を卒業した人たちが「酒造りの仕事がしたい」と志望して入社してくれています。そして入社後5、6年すると、彼らに大吟醸をそれぞれ1本ずつ預けてしまうのです。1本に関するすべてに責任を持ってもらうのです。
オーナーが製造にかかわることのよさは、ランクを落とす決断ができるところにあります。大吟醸を造っている途中に難しいと判断したとき、極端に言えば「普通酒まで落とせ」と指示することができるわけです。大杜氏には許されないこの決断が、オーナーである私にはできるよさはあると感じています。