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第二回 連載 価値を創るホテリエ 

第二回 少子高齢化と人手不足

2018年04月22日(日)
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I.宿泊サービス業の課題(その2)

 「少子高齢化」こそが、日本の将来にとって大きな問題である、という問題提起をテレビや新聞で目にするようになって久しく、既にこの国全体が共有すべき課題となった感があります。

 ただ、すぐ目の前に具体的な形で現れることではない為に、現実にこの問題を肌で感じ、危機意識をもってとらえている人は、これまであまり多くはいなかったのではないでしょうか。ところがここ数年、サービス業全般において、「人手不足」の問題がその深刻度合を急激に深め、ホテル業界においても、特に地方都市では、いくら求人をかけても、多少条件を良くしても、一向に人の採用ができない苦境が続いています。また同じサービス産業の中でも、運送業界ではついに配達時間の短縮や荷物引き受けの制限が論じられ、外食産業や小売業界においても営業時間の短縮などを強いられるに及んで、我が国の労動力不足は俄然身近な大問題となってしまった感があります。

 理論的にみても、一国の力を経済的に測る物差しであるGDP(=国内総生産)は、労働投入量(=どれだけの人が働いているか)、資本投入量(=どれだけのお金をかけているか)、労働生産性(=どれだけ効率的に働いているか)の三つの要素で決められる訳で、生産年齢人口(15歳以上65歳未満の人口=労働投入量)が減少していくことが既成事実となっている日本の、将来の国力低下が危ぶまれるのは当然とも言えます。
 
 

 
 その対策として政府が提唱しているのが「男女共同参画」(=家庭にいる女性に働きに出てもらうことで労働参加率を上げ、労働投入量の減少を補おう、というこころみで、保育所の整備や専業主婦の配偶者控除の廃止なども、すべてこの目的のための手段です)ではありますが、その程度で直面している人手不足が改善されるとは思えないほど、現在の状況が深刻であることは、サービス産業で人集めに苦労した経験をお持ちの方の、共通認識ではないでしょうか。

 欧米の先進諸国においては、日本ほどこの問題が深刻化していないのは、海外からの移民を受け入れることで労働力を補っているためですが、世界の歴史の観点では“激動期”にあった中世~近代の世において、260年以上もの間「鎖国」を貫いた単一民族・島国国家の日本が、そう簡単に移民の解禁に踏み切ることができるとは思えませんが、早晩就労ビザの大幅な緩和に踏み切ることで、海外の労働力を取り込まざるを得ない日が来るのではないか、と考えます。
ただ、私がここで「価値を創造しうるホテルマンだけが生き残ることができる」と主張するのは、この外国人労働者に職を奪われる、という事態を懸念している訳ではありません。無論「人」による個人差はあるとは思いますが、国内で不足する労働力を補う目的で海外から受け入れる移民が、数世代にわたる時を経て後のことは別として、すぐに言語や生活習慣、国民性といった「感性の差」を乗り越えて、「価値を創るホテルマン」として、日本人の代替になりうる、とは思えません。

 私が懸念する競合相手は、人ではなく、モノです。人間の英知は、これまでいくつかの局面で人の生活を飛躍的に前進させてきました。
その第一が、日本がいまだ国を閉ざしていた18世紀の後半に起った産業革命です。蒸気機関の発明によって、人が初めて、牛や馬などの生きモノ以外の、機械の力を手に入れ、繊維産業などの工業化や機関車や船などの交通の近代化によって、人の生活が大きく発展したのは、ご存じの通りです。

 また電気や石油をエネルギー源とすることで、大量生産、重工業の発展を実現した第二次産業革命、コンピューターによって自動化が推進され、計算・制御・通信などの分野を飛躍的に発展させた第三次産業革命に次いで、ここ数年、ロボット技術やAI(人工知能)の開発・発展によって、「第四次産業革命」が起こっていると言われるようになりました。

 実際に車の世界では既にAIによる自動運転が公道実験の段階に入っています。これが認可・実用化されれば、「運転手」という職業がなくなっていきます。先ほど人手不足で営業に支障を来たしている例としてあげた運送業においても、車が自動運転で目的地まで到着すれば、重い荷物や大きな荷物であっても、難なく戸口まで運ぶのは、ロボットが得意とするところですから、第四次産業革命が運送業界の人手不足を解決するのも、そう遠い先のことではないかもしれません。

 こうした動きが、同様に人手不足に悩む宿泊サービス業界にも及ぶのは、必然ではないでしょうか。人と同じような動きをする容姿端麗なロボットが、ホテルの営業・オペレーションに関する情報や周辺地域・観光情報など、インプットされた内容を自在に操って多国語での会話が可能なAIを搭載すれば、フロント従業員の代替は可能となります。
仮に一体の費用が400万円かかるとしても、1年で元が取れ(従業員一人分の年間人件費に相当)、有給休暇も残業代もなく、毎日24時間働いてくれます。
既にHIS社が手掛ける「変なホテル」においては、ロボットによる接客を「ウリ」にして上々の集客を得ているようですが、必ずしもこれを「ウリ」としなくとも、不足する要員を補うには十分な機能を果たすものと思われます。

 同様に「人手不足」に悩むコンビニ業界が、無人の精算機を導入するという報道も流れています。人間の英知が人手不足を解消するための機会やシステムの発明・実用化をもたらすのに、もうさほど長い時間がかからない、かつてSFの世界だったロボットが当たり前のように人に代わって働く社会が、現実味を帯びてきています。
引く手数多の「人手不足」の状況にあぐらをかいていては、ロボットが安価で安定した労働力となりうる次の時代に、しっぺ返しを食うことになりかねません。
そうならないためには、機械やロボットにはできない付加価値を身につけることです。
ロボットには「心配り」や「気遣い」という、繊細で温かな「おもてなし」や、臨機応変な「気の利いた対応」は、まだまだ不可能です。
そしてこの部分こそが、人間にしかできない「付加価値」となります。

 宿泊・サービス業界でも世の一般的な傾向と同様に、「二極分化」が進行しています。
シティホテルでは大都市圏を中心に、ルームレートが5万円を超えるホテルの開業ラッシュとなっている一方、地方都市を中心にビジネスホテルでは、稼働率を上げるための価格競争が続いています。
 旅館においても個室に露天風呂が付いた高価格帯の部屋がぜいを競う一方で、食事を外して手軽な利用を促す素泊まりプランも顧客の支持を得ています。
日本での所得の二極分化については、①労働分配率(=企業の付加価値、売上総利益とほぼ同じに占める人件費の割合。企業が得た利益の内従業員に還元する割合)の低下によって、②高齢社会の進行にともなって(~内閣府経済社会総合研究所)、③中間所得層の代表であった正規の工場労働者層(=第二次産業就業者)が、生産拠点の海外移転や臨時工などの非正規社員への代替などで減少したため、などさまざまな要因が言われているものの、いずれの原因をとってみても、今後さらに進行していくことが予想され、これにともなって宿泊・サービス業における二極分化も進行すると考えられます。

 現状においても、ビジネスホテルの中にはチェックアウトを機械精算で行なうところもあり、フロントマンに求められるのが、チェックインとチェックアウトを機械的にこなす程度であれば、その職場は容易にロボットに代替されることが予想されます。
一方でドアマンや、フロントマン、コンシェルジェなど、そこで働くすべてのスタッフに繊細な「心配り」や「気遣い」が求められる高級なシティホテルにおいては、温かみのある「人」によるサービスが不可欠で、機能重視のロボットではその代替は不可能です。
この「代替不可能なもの」が、それを行なうことのできる人の“付加価値”であり、その人の行なうサービスに対して、お客さまが評価する価値が「バリュー」ということになります。

 「バリュー」のない仕事は機械に代替され、人が不要になる一方で、「バリュー」のある人の仕事には値段(=収入)が付く、そこで働く側でも二極分化が進行していく過程では、目指すべきが後者であることは自明です。
 


 

ホテルマネージメントインターナショナル㈱
常務取締役 経営企画部長
平 剛俊 プロフィール
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