私は社会人になって26年間、金融の世界で仕事をしてきました。そこから縁有って、まったくと言っていい程“畑違い”の宿泊・サービス業界に入って、8年が経ちました。
この業界に長く携わって来られた方々からすれば、「未だ8年しか…」ではあり、実際にサービスの一線に携わった経験の無い人間が、この業界についてあれこれ語ることに、不快感を覚える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、この業界に長年いらっしゃると当たり前になって見えて来ない事でも、異業種に居た者の視点・常識からすると素朴な疑問を感じたり、大きな課題であると考えさせられることも多く、諸先輩方も多い中で大変僭越ではありますが、異業種から転じた私が感じた宿泊・サービス業界の課題について、率直に取り上げ、共に考え、この業界で働く若い方々の“次につながる”一歩となればと思い、敢えて筆を取ることにしました。
ライフ・ワークバランスが尊重され、過重労働や人手不足が社会問題となる中で、労働時間が変則になりがちで、給与水準も他業界対比で必ずしも高いとはいえない宿泊・サービス業界を、若い人たちが将来の希望を持って働ける産業にしていかなければ、人材の量的・質的不足は深刻化する一方になってしまいます。
「人と接する仕事をしたい」「お客様の笑顔が見られる仕事にやりがいを感じる」と言って目を輝かせていた若者が、数年間の現場勤務の後に、夢破れ、疲弊して、別の業界を目指して退職していく姿を、やるせない思いと共に幾度となく見送ってきました。
この業界に属する諸企業の経営に携わる皆様は、おそらく例外なく同様の危機意識を持って、その対策をお考えの事と思います。ただこれは、企業の側だけに対策を委ねる問題であっては、大きな改善、解決は望めないと私は思います。
この業界で働く人たちひとりひとりが、自分たちの仕事の意味をきちんと理解し、自ら付加価値を産む存在になって初めて、その組織、ひいては業界全体の生産性が向上し、職務環境が改善に向かう第一歩となるものと考えます。足元は厳しい人材不足から、“引く手あまた”の状況であっても、その先には「価値を創造しうる人材だけしか生き残れない時代」がやってくると、私は懸念しています。ひとりでも多くの方が、高い付加価値をもって、宿泊・サービス業界の将来を支えていく存在となられるよう、一緒に考えていきたいと思います。