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追悼特集 

山口祐司、この稀代のホテリエの人生の軌跡

【月刊HOTERES 2018年03月号】
2018年03月16日(金)
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理念と現実の狭間に
 
 時は、1984( 昭和59) 年の6 月、山口祐司が同ホテルの専務取締役に就任して間もなくのことである。ホテル業界の専門誌『週刊ホテルレストラン』でホテルジャーナリストとして10 年にも満たないキャリアの筆者が、山口の執務室(ホテル総支配人室)を訪ねたときのことである。
 
「君はいつからホテレスで働いているの。ホテルマンの経験は。もし、これから長くホテルジャーナリストを目指すなら、この本を熟読しなさい」と言って手渡しされたのが『米国ホテル会計基準』。「ホテルビジネスを理解する上で最も重要なことは会計システムを理解すること。経費や利益の構造がどのような基準になっているかを理解しなければ、薄っぺらな知識だけでは、とても海外ではホテルジャーナリストとして胸を張れません。なので、会計システムは徹底して勉強しなさい」と。
 
 後年、山口と会うことが重なった時機があり、そのとき、「あのとき、どういう理由でご自身の著書をプレゼントしてくれたのか」とただした。「そうですね、当時、ホテレスの連載で私が一番に興味があったのが〈ホテル企業分析〉です。ただし、なぜ日本のホテル企業は、世界のスタンダードになっているユニフォーム会計にしないのか、という大きな疑問があって、さまざまな機会にこのことを提唱してきていた。つまり、そういうメッセージを託した、多分そういう意味でしょう」。日本のホテル業界は、それまで構造的に鉄道会社や航空会社、あるいは、その当時に勢いのある業界、産業が必ずと言ってよいほどホテルビジネスに参入するという図式があった。これを連結決算にするというのが一般的な構造であった。管理会計とユニフォーム会計、ここには大きな隔たりがあり、この違いをホテル関係者に啓蒙することこそが、山口の本意であったと推測する。

 
 山口が、ホテル業界に残した足跡をみると、改めてその存在感の大きさが認識される。略歴にもあるように、主な役職だけを取り上げても、日本ホテル・レストラン・コンサルタント協会会長、日本ホテル産業教育者グループ会長、日本ホテル・レストラン技能協会常任理事、コーネル大学ホテル経営学部同窓会東京支部長、日本リゾートクラブ協会理事、日本ホスピタリティ推進協会常任理事、日本健康文化振興協会理事、日本余暇文化振興会理事、国際観光施設協会顧問、日本ホテル教育センター(日本ホテルスクール)監事という具合である。
 
 筆者にとって、最も身近に感じていたのは『月刊ホテル旅館』の「コーネル・ホテル・クォータリー」翻訳監修(1979~ 2017 年)の連載。世の中の移り変わりも含めて、コーネル大学がいかに世界のホテル産業発展の礎になってきたかが理解される話題が耳目を集めたのは当然のこと。
 
 ホテル産業のみならず、広義に観光業界の関連のパーティーはたくさん企画されているが、どのパーティーでも寸暇を惜しんで積極的に参加されていたのが山口である。この種のパーティーには、" アイランド・ピープル"と呼ばれる人種がいる。一言で言って、人気者である。山口は、こうしたパーティーでは、必ずアイランド・ピープルの役回りに徹していた。多くのパーティー参加者が、「山口さんとお話をしたい!」と口をそろえていた。
 
 昭和9 年生まれの同世代と比べると、長身でいつも上質なスーツを着こなしていた。饒舌であり、この種のパーティーでは、山口節とも言える独特のエスプリで参加者を笑わせる絶妙のスピーチがやはり思い出深い。ホテル業界で重鎮とも呼ばれ、敷居の高さを感じさせる輩も多い中で、山口は、老若男女構わず誰とでも軽妙なコミュニケーションをとっていた。
 
 晩年、ホテル業界セミナーなどでお目に掛かる機会が増え、ときには筆者が講師の立場で壇上に上がると、山口が好々爺の体で、客席のいち観客となっていることもあったのが、なにか不思議な思いにつながってる。セミナー後の懇親会などで少しアルコールが入ってくると、「今回のセミナーは、あの部分が良かった」などと珍しくお世辞を口にしたときもある。
 
 1958(昭和33)年11 月、箱根富士屋ホテルの経営者であった山口堅吉の長女裕子と結婚し、山口姓となったことからスタートしたホテリエ人生は、まさにロジカルシンキングで、日本の観光産業、ホテル産業を牽引してきたことは間違いない事実であろう。まさに日本のホテル産業の黎明期、コーネル大学ホテル経営学部に留学ということが、即ちその後の山口の人生を光り輝くものにしたと言っても過言ではないだろう。
 

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