さまざまな料理人がいる中で、一人一人が持つ苦悩と挑戦の数々の物語がある。ホテル・レストランの総料理長が食の業界や若手の料理人に向けて伝えたいことは何か。これまでの長い経験の中で、どのようなことに悩み、どのようなことを考え、どのようにチームを創り上げてきたのか。インタビューを通じて後継者育成に向けた取り組み、マネジメント手法などを探るシリーズ「料理人の教育論」を隔週連載でお届けする。
㈱ロイヤルホテル 常務執行役員
リーガロイヤルホテルグループ 統括総料理長
太田 昌利(おおた・まさとし)氏
長野県出身。調理技術の確かさ、盛り付けの美しさでお客さまより定評を得る。1982 年3月 ( 株) ロイヤルホテル入社 宴会調理部、86 年9 月 同関連事業部 関電会館、90 年6 月 リーガロイヤルホテル 調理部 レストランガーデン、98 年5 月 海外研修(フランス「ジョルジュ・ブラン」、スイス「ホテル ボーリバージュ」)、99 年4 月 リーガロイヤルホテル 調理部 「レストラン シャンボール」、2001 年2 月 くろよんロイヤルホテル 料理長、07年 4月 リーガロイヤルホテル「 レストラン シャンボール」シェフ、08 年10 月 社内大学院「グラン・デコール・ド・シャンボール」専任指導者任命、13 年4 月 リーガロイヤルホテルグループ統括総料理長 リーガロイヤルホテル 総料理長。
歴史の継承者たる老舗の総料理長
マネジメントを預かる立場として
―最初に、伝統と格式ある㈱ロイヤルホテルの総料理長という立場についてお伺いさせていただけますか。
関西の老舗ホテルの総料理長としてお客さまの期待に応えることはもちろん、「歴史の継承」と言う部分も大切な役割の一つです。私は2013 年4 月より、グループ統括総料理長、また大阪の総料理長として務めています。就任当時は40 代と、当社の歴史の中では前例のない若さでの抜擢でした。社内を見れば自分よりも経験豊かな先輩方がいる中、経営陣からは料理や組織について「革新」を求められる状況でしたが、バランスを考えながら常に誠意を持ち周囲との協力を図ることで、ホテル全体の評価を高めることができました。
―今回は「教育論」と言うことで、人材の教育という部分にしぼって太田総料理長の考えをお聞かせください。
教育についてお話するうえで、今と昔では環境がまったく違うということが大前提です。よって今の社会や若者たちの考え、価値観に沿った教え方、伝え方をする必要があると考えています。例をあげますと、昔はよく「背中を見て育て」と言われましたが、今はある程度指導を入れたうえで実践させるといった具合です。
この違いは決して甘やかしているわけではなく、昔より少ない人員、限られた時間の中で若手を等しく一定のレベルまで引き上げるために、マネジメントを預かる立場として必要な工程であると考えています。
―教育の管理も大切な役割の一つというわけですね。
私自身は就任以来頻繁に現場を回り、積極的に各部署のスタッフとコミュニケーションを取るように心がけています。悩みや問題を吸い上げたり、ときには機器の導入などを提案しながら、仕事に励みやすい環境、意欲的に学ぶことができる職場としていくことが、教育の一環として重要だと考えています。各店舗のシェフたちも、教え方や伝え方にそれぞれ得手・不得手がありますから、足りない部分をフォローすることで、理想とされる指導者へと導くことも、同じく大切な総料理長の役割の一つです。