さまざまな料理人がいる中で、一人一人が持つ苦悩と挑戦の数々の物語がある。ホテル・レストランの総料理長が食の業界や若手の料理人に向けて伝えたいことは何か。これまでの長い経験の中で、どのようなことに悩み、どのようなことを考え、どのようにチームを創り上げてきたのか。インタビューを通じて後継者育成に向けた取り組み、マネージメント手法などを探るシリーズ「料理人の教育論」を隔週連載でお届けする。
株式会社パレスホテル 取締役総料理長 斉藤 正敏 氏
斉藤 正敏(さいとう・まさとし)
1959 年生まれ。2010 年㈱パレスホテル入社、調理部次長を務める。13 年4月総料理長就任。「Japan Prize 2015 日本国際賞晩餐会」の宴席をはじめ、東北復興支援イベント「モナコ宮殿×エリゼ宮殿 ふたりのグラン・シェフの饗宴」など、星付きシェフを招聘したガラディナーを数多く統括。16 年フランス「農事功労賞」のシュヴァリエを授章。
料理人の道を目指すまでに
滝のように情報が流れている時代
—今の若いスタッフを見ていて、時代の変化を感じますか。
もちろん感じます。一番若い世代と私とでは4世代の開きがありますから、物事の捉え方はまったく違います。私の場合は学生時代に、ご縁があって紹介されたホテルのシェフに「料理人になりたいと考えていますが調理師学校に行く必要がありますか」と尋ねたところ、「学校に行くよりも、すぐに私のところに来て現場で働きなさい。時間がもったいないですよ」とアドバイスされ、そこを入り口にこの業界へ進みました。
今は調理師学校を卒業してから入社するのが当然のルートになっていますし、そこにたどり着くまでにも世の中に情報が滝のように流れています。自分に必要なものを見つけ出すのが困難なほど情報があふれているため、今の自分に必要なもの、将来的に必要になるものを判別して、的確に選択することが難しい時代だと思います。
—それは離職率の問題にもつながるお話でしょうか。
関連があると思います。入社前に抱いている仕事や職場に対するイメージが学校と変わらず、学生生活の延長のような気持ちで入ってくる人がいることも確かです。
新卒入社の社員に限ってはここ数年、入社後3カ月間残業が発生しないように、各職場に伝達しています。社会に出て働き始めたばかりの人たちなので、負担がかからないような環境を整えてあげることも必要だと思います。
「仕事は習うものではない、盗むものだ」と言われていた、私たちが育った時代からかなりの時間が経ち、職場環境は大きく変化したと言えますね。「こんなことまで教えてあげるのか」と思われるほど、若い人たちに居心地のよい環境を、企業全体、業界全体で作っているのが現状です。それでも料理人としてやっていくのは無理だと感じる人がいたら、何処かで「ボタンの掛け違い」があったのかもしれません。