ホテルメトロポリタンエドモント 名誉総料理長 中村勝宏氏
料理研究家 辰巳芳子氏
はじめに
以前、このホテルレストランの誌面で十六名の食のエキスパートの方々と対談させて頂いた。このことはかけがえのない財産となっている。そして改めて食の深さを知ることとなった。強、世界的にさまざまな問題が生じ混沌として厳しい時代となった。しかし私どもはいかなるときも食と向かい合ってゆかなければいけません。この度の対談の再開にあたり、新しい視野の元、敬愛する皆さまと互いの胸に響きあえる対談を心してまいりたい所存です。
日本で最初の本格的な生ハム作り
中村 さて、その生ハムのことですが、おそらく辰巳先生もイタリアに行かれて、本物の素晴らしい生ハムを折々にお口になさったことでしょうが、当時はまだ日本にあまり流通していなかったように思えます。そして、その生ハムを先生が日本に帰国された後、40 代半ばのころだったと思いますが、鎌倉のご自宅に工房を作られ、実際にその生ハムを作り上げられたということは、本当に驚異的なことであったと思えてなりません。
辰巳 そうでございますか。なぜあのイタリアの人たちが常に生ハムを必要としているのかと言うと、要は慣れた塩味なんですよね。私たちはしょうゆやみそを使いますけど、しょうゆ、みその代わりに塩分をそこに求めていたわけですね。
中村 料理、食品を含め何かを作ろうとするとき、最終的には塩がすべての基本となります。
辰巳 そうなんです。慣れ味の塩分を必要とするときに、塩の代わりにハムを使ったんですよね。そうでないと、まっすぐ塩だけを使わなきゃなんないですからね。