あくまでゲスト目線で
空間をとらえることに徹した
大胆かつスマートなリノベ
石井 今回のコンセプトを一番表現しているのが、ロビーです。通常のホテルのリノベーションでは客室等に比べ、ADRのアップにつながりにくいロビーは優先順位が低くなりがちです。しかし、ロビーこそがホテルの顔。ここでコンセプトを表現したいというブランディングチームからの想いをうけ、もともとこのホテルがもっていたビジネスホテルとしては十分すぎるほどのロビー空間を最大限活かし、魅力ある空間にしようと考えました。具体的には、非日常的な空間ではなく、日常の延長線上にある“ 上質感”を追求し、普遍的なシンプルモダンなスタイルを意識しました。メンテナンスのことなどを考えるとロビーには考えられなかった全面木製フローリングの床や、ファサードなどに使用している木製格子、柱巻やカウンターの金属の素材感など、温かみのある自然素材を使っています。
長﨑 ロビーのご提案は、こちらの意図を汲んでくださっていることが伝わってきて、非常に嬉しいものでした。爽やかなアロマの香りとともに地元のカフェのコーヒー豆を使用した美味しいコーヒーが飲めるベンダーコーナー、地域のアーティストたちの発表の場としても使えるラウンジ、コピーやパソコンが使えるビジネスコーナー、ラップトップで仕事や充電ができるカウンター席、ミーティングにも使えるソファ席など、機能性を充実させるとともに、さまざまな色、形の家具のデザインが美しく空間を彩っており、お客さまが思い思いの過ごし方ができるようにしたてられ、改装後はお客さまにも大好評で、ゆったりとくつろいでいただいています。
垂見 中央の柱巻にある博多にちなんだ工芸品のディスプレイや、地域発行の書籍を並べているのも好評です。コーヒーを飲みながら、雑誌をめくる時間が旅の疲れを癒してくれますし、絵本もあるので、小さなお子さまをお連れの方も、自宅のリビングのような感覚でお子さまと過ごしていただけます。また、フロント前にiPad やプリンターを常設しており、自由に情報を引き出せるほか、スタッフやお客さまがリコメンドする情報誌には載っていない飲食、アート、ショップなどの地域情報を紹介するビルボードを設置するという地域とお客さまを結びつける工夫を行いました。
万井 情報はネットで収集するのが当たり前となっていますが、もっと人間らしさというか、人の温もりが感じられるようなアナログ感や人と人とのつながりを大切にする、そんな“ スマートな感覚”に共感しました。
石井 そんな“ スマート” さが一番表れているのがフロントです。従来の長いフロントカウンターの形状を見直し、航空会社のカウンターのようなアイランド式のフロントカウンターを提案させていただきました。アイランドにすることによって、スタッフの方が荷物の受け取りもスムースになりますし、動きやすいのですぐにお客さまの元に駆けつけられると考えました。
長﨑 確かにこのカウンターを採用したことで、お客さまとの距離感がぐっと近くなった気がします。スタッフがフロントから出て、すっとお客さまのところに近寄ってサービスをするなど、以前では行えていなかったことができるようになったことは大きいです。
石井 客室に関しては「総数を変えない」という前提がありましたので、限られた空間の中でいかに居住性を高めるかを追求しました。従来のビジネスユース主体であるシングルに加え、ビジネス、レジャー、カップル、レディース、シニアなどのターゲットに絞った4種類のプレミアムルームを設置し、ADR の底上げとともに、今まで取り込みが少なかった顧客層の獲得を目指しました。最終的にシングルとツインのみだった部屋タイプがシングル、プレミアムビジネス、プレミアムレディース、プレミアムダブル、プレミアムツインの5タイプに増えています。いずれも余分なものを排除し、すっきりとまとめています。一番ベーシックなシングルルームでは壁掛けのテレビボードを設置、ナイトテーブルとナイトライトをなくして、読書灯を取り入れました。一人でもくつろげるコンパクトなソファ、マッサージクッションなど、ビジネスマンの疲れを癒せるアイテムを取り入れました。
また、プレミアムルームは共通で水廻りを一新してシャワーブースに変更しました。こちらのホテルには大浴場がありますので、ゆったりと入浴を楽しまれたい方は大浴場で、さっとシャワーで済ませたい方は高機能のシャワーで、使い分けていただけたらと。プレミアムビジネスでは大型のワークデスクにコーヒーマシン、マッサージチェアを設置。プレミアムダブルではカップルにフォーカスし、ワークデスクを省く代わりにW1600 のベッド、ソファ、iPad やHDMI 端子を設置しました。また、プレミムレディースはやわらかい色調と曲線を多用したデザインをベースに、三面鏡やフットマッサージ機、ナイトスチーマーなどを置いています。シニア層を意識したプレミアムツインでは和モダンなデザインをベースに裸足でくつろげるフローリング、ソファなどを設置しています。
西鉄ホテル クルーム博多/丹青社
ホテルと空間づくりのプロフェッショナルとの 良好な関係性から生まれるリノベーションの成功
2016年09月23日(金)
Before
After
Before
After
Before
After
Before
After
西日本鉄道株式会社 ホテル事業本部 営業企画部 営業統括課 課長 長﨑 精治氏
西日本鉄道株式会社 ホテル事業本部 営業企画部 営業統括課 係長 垂見 有沙氏
株式会社丹青社 プリンシパル クリエイティブディレクター 万井 純氏
株式会社丹青社 CS 事業部 デザイン統括部 チーフデザイナー 石井 康祐氏