株式会社FiNC
代表取締役副社長 CWO 兼CAO
乗松文夫
1949 年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒。1973 年日本興業銀行入行。執行役員個人営業推進部長を経て、みずほフィナンシャルグループの発足とともに、みずほ銀行常務に就任。営業部門を統括。2003 年協和発酵工業に転じ、その後、協和発酵キリン常務、協和発酵フーズ社長、総合商社で あるミヤコ化学社長を歴任。更に岩手県大船渡市・陸前高田市の復興に携わる。金融、メーカー、商社、シンク タンクなど幅広い業界に通じ、豊富な人脈を持つオールラウンドなマネジメントのプロ。
ポイント(要点・特徴)
■ 宿泊・飲食サービス業界3つの課題「離職率の増加」「採用・育成コストの増加」「生産性の低下」は、従業員の健康状態悪化が引き金に
■ そこで企業が従業員の心身の健康を支援する「ウェルネス経営」が浸透
宿泊・飲食サービス業の離職率の増加の課題は根強く、業界トップで、約5 割にものぼります。理由として、就業体制が不規則なことや、長時間労働であることによる心身の健康状態の悪化が挙げられていますが、抜本的な対策は講じづらいようです。
そういった課題に対し、近年、従業員の健康を企業が支援・管理することで離職率の増加を解消する試みが見られるようになりました。
その取り組みは、「健康経営」・「ウェルネス経営」と呼ばれています。従業員の心と身体の健康を重要な経営資源として捉える経営手法です。「健康経営」と聞くと、身体的健康のイメージが強いですが、実際は、精神的健康・情緒的健康など、“ 心” の健康も重視されるため、「健康」よりも更に広義な意味を持つ「ウェルネス」という言葉を用いた「ウェルネス経営」が浸透してきております。
従業員の健康を企業が支援・管理するという言葉に対して、“ 投資” ではなく“ コスト”、という印象を持たれる方もいらっしゃるかと思いますが、意外にも欧米では、90 年代から広がっている経営手法で、多くの企業で効果を得ています。近年では、日本でも注目され、マスメディアでは、ウェルネス経営を導入した企業や実際の取り組み事例、ウェルネス経営実施に適したサービスも取り上げられるようになってきました。2015 年には健康経営を戦略的に行っている企業を選定する「健康経営銘柄」、同年12月には「ストレスチェック制度の義務化」など、政府がウェルネス経営・健康経営を推進する動きも見られています。
ウェルネス経営は、従業員の健康増進や満足度の向上からはじまり、企業の業績及びブランドイメージの向上・離職率の低下等、国としては健康寿命の延伸、医療費の削減など、幅広く効果が期待でき、非常に社会性を持った取り組みとして注目を集めています。
反面、日本ではウェルネス経営の前例が少ないため、企業や従業員に最適な施策が不明確なことや、どのように健康経営保険組合との連携を図るかなどといった導入に際しての障壁も耳にします。
今回の連載では、宿泊・飲食サービス業が抱える課題を踏まえながら、ウェルネス経営によって見込める効果、具体的な施策、ウェルネス経営の課題と対策など、幅広くご紹介していきます。