NPO 法人アレルギーっこパパの会
理事長
今村慎太郎
Shintaro Imamura
〈Profile〉娘の食物アレルギーをきっかけに、アレルギー対応力が高い企業が食物アレルギーのない人たちから選ばれる社会を目指し、2013 年NPO 法人アレルギーっこパパの会を設立。研修・講演、メニュー開発やコンサルティング、アレルギー対応のためのコミュニケーションWEBサービス「アレコミュ」で、ホテルや飲食店など外食企業のアレルギー対応支援を行なっている。
NPO 法人アレルギーっこパパの会 http://www.arepapa.jp/
近年の食物アレルギーを含むアレルギー疾患の急増を受け2015 年12 月、アレルギー疾患対策への指針策定を国に義務づける「アレルギー疾患対策基本法」が実施。それにより、フードビジネスに携わる企業はもちろん、国民もまたアレルギー疾患に関する正しい知識を備え、注意を払うことを努めなければならない。そこで、現時点の当事者だけでなく、改めて識しるべき「アレルギー対応」について発信する。
日本で唯一のアレルギー対応旅行を展開するQOL トラベル。私も2 年前の沖縄旅行に家族全員で参加させていただき、アレルギー対応旅行を体験しました。10 品目(卵、乳製品、小麦、えび、かに、そば、落花生、大豆、ごま、ナッツ類)除去をベースに提供される食事の時間は食物アレルギーの子どもたちにとって初めて体験する楽しい時間であり、重度食物アレルギーの子どもたちにとってはまさに夢のような体験です。また、食事だけでなく、アクティビティーも充実しており、この旅行にしかない感動体験が盛りだくさんの旅行となっています。一方、ここに至るまでには事業者として抱える課題を解決しなければなりません。重度食物アレルギーの子どもたち、外食事業者双方のリスクの極小化や、宿泊先ホテルや地域のレストランとの連携、参加家族とのコミュニケーションなど、リスクとどう向き合い、どう解決してきたのか。そして、解決した今、何を思うのか。地域を巻き込み、多くの食物アレルギーの子どもたちやその家族が参加するアレルギー対応旅行の魅力とは。
今回は、日本で唯一のアレルギー対応旅行事業「QOLトラベル」を運営する㈱エボリューション代表取締役 栩野氏へのインタビューから、アレルギー対応旅行がもたらす価値や、アレルギー対応に必要な考えなどをご紹介します。
食事開始直後、
家族の前で泣きじゃくる父親
平成19 年12 月の久米島旅行から始まり、これまで1500 人を超える食物アレルギー当事者家族が参加してきたこの旅行には数々のエピソードがあります。私が参加したときも、普段は体験できない旅行を思う存分楽しむ家族の姿がありましたが、この旅行には楽しむ子どもたちの姿ばかりでなく、涙を流す親の姿も見ることができます。数々のエピソードの中でも、栩野氏にとって印象に残っているエピソードをご紹介します。
旅行初日の食事が始まった直後、栩野氏が参加者一人一人に声をかけたときのこと。家族4 人参加の席であいさつをした途端、父親が大粒の涙を流し泣きじゃくったそうです。重度食物アレルギーの子を持ち、今まで父親として力になることができなかったことへの自責の念や後ろめたさ、日ごろの妻への感謝など、さまざまな複雑な思いが涙になって表れていたそうです。「アレルギー対応旅行には日ごろ体験できない旅行や食事を提供する価値がありますが、それ以上に人、家族の大切な瞬間に立ち会い、共有できる無形の価値があります。その無形の価値がこの旅行の最大の魅力であり、私が続けられる理由でもあるのです」と栩野氏は言います。