調理現場で常に問題になるのが「いかに道具を使いこなすか」。最近では機器の進化もあり、より“ 高度化” したキッチンが登場している。調理人を養成する学校現場では、そうした問題にどう対応しているのか。理論と実践の融合を特に大切にしている誠心学園の広瀬道校長にお話を伺った。
学校法人誠心学園 広瀬 道氏
キッチンの進化と人の進化
――キッチンの進化が進んでいるようですが、学校としてはどう対応されていますか。
広瀬 キッチンを考えるうえで、大切なのは世の中の全体の変化を考えるべきと思います。特に身の回りの設備類の変わりようはすごいものです。家電メーカーを見ればよく分かります。携帯電話一つとっても、あるいはテレビのリモコンをとってもさまざまな機能があります。しかしそれを使いこなす人がついていっていないというのが現状です。
――確かにそうです。特に年配者はそうですが若い人も使いこなすには大変そうです。
広瀬 時代が変わったと言ってしまえばそれまでですが、しかし昔のことを考えればもっと生活の中にも工夫があった。例えば白黒テレビ。ブラウン管時代で映りが悪くなったときなどたたき方次第で良くなったりした。たたく場所で接触不良かな、などと思ったりする。今は4K時代でとても太刀打ちできないことは分かっていますが、それでも工夫することは大切です。
――キッチンも毎年進化し使いこなすのも簡単ではありませんね。そうとう機能も高度化していますから。
広瀬 そうです。キッチンはキッチンでこれからも進化は進んでいくでしょう。しかし人の進化がされていません。これではキッチンがいくら進化しても意味がありません。
――人の進化ですね。
広瀬 人の進化が料理に直結します。いい道具があってもそれに人が対応していなければいい料理は生まれません。今、専門学校でこれが問われていると思います。以前大阪の調理師専門学校に行って感心したのは、コンベクションオーブンがフロアによって全部違うことでした。5 ~ 6台あったでしょうか。メーカーの違いもあれば、同じメーカーでも古いものと新しいものがある。
――しかし、基本的な構造は変わっていませんね。
広瀬 そうですが、それぞれの“くせ”があります。ファンの位置によっても熱の回り具合が違ってきますでしょうし、80℃の温度設定も各社によって誤差の範囲が違います。なぜか上向きにぶれる機種もあれば下向きにぶれる機種もある。それぞれのくせを見越して使いこなす必要があります。
鉄板焼きでも同じことが言えます。同じ鉄板でもメーカーによって熱源を入れていく位置が違います。200℃と設定してもある会社は190℃にしかならなかったり、ある会社は210℃になったりする。本来の設定温度と10℃も違えば調理にもたらす影響は少なくありません。
――そういうくせは完全に知っていなければなりませんね。
広瀬 パンの生地を焼く場合などは、温度設定のほかにローテーションも考えなければなりません。その機器のくせを考えながら。ところが某メーカーの機器は一回プログラムを組めばボタンを押すだけでいいパンが焼き上がります。ボタンを押すだけです。
――素晴らしいですね。でも考えなくなってしまいますね。