人生100年…といわれるようになった。長らく当然と思われていた新卒から定年退職まで就業するスタイルは、職種の細分化やライフスタイルの多様化などによりその価値観が変容。就職はゴールではなく、就労中にどのような進化を遂げるかを念頭に、企業も個々もスキルアップの必然性に向き合う傾向が顕著になっている。
約40年間のホテルシェフを経て、2024年初冬、63歳で「Chef Sasaki」を開業した、笹木浩一氏の人生第2章をレポートする。
料飲施設の品質改善や業務効率化など 目標達成で見えてきた次なる意欲
60歳までは羽田エクセル東急ホテルで総料理長として活躍していた。2022年、定年後はホールディングス化された伊豆急コミュニティーで料飲統括支配人に着任。そこでは、主に統合された料飲施設の味の底上げや業務の効率化のもと、パートを含む全スタッフのスキルアップと味のクオリティを向上させ、原価管理と収益性を実現。数値目標をクリアしただけでなく、なによりも現場の活気を醸成させるなど、かつて自身の成長過程で得られた苦楽を共にしながら成長できる職場づくりにもつながった。思えば定年時、ホテル勤務歴43年目だった。
「1981年調理学校を卒業後、当時初の外資系ブランドホテルだった 東京ヒルトンホテル に就職しました。ゲストの7割が欧米人というホテルにもかかわらず、英語が苦手でとても苦労しました。ホールに立ってオーダーを受けることはないものの、館内でお困りの外国人ゲストをお見掛けしても気の利いた言葉一つかけられず、ホテル内の料理人としての足りないスキルを痛感したこともありました。また「オリガミ」に在籍していたころ、スパゲティーナポリタンの味をお客さまのご要望に合わせて、一か八か変えたことがあります。それが奏功し、その後リブランドしたザ・キャピトル東急ホテルの「オリガミ」でも受け継がれました。名物のパーコー麺をオーダーされる親子三代の常連さんや、TBSラジオの出演時にご利用いただいていた森本毅郎さんにはご体調を加味した油少なめで素材の風味を生かした料理をご提供させていただきました。2009年キャピトル東急ホテルの閉館時に、森本さんからの“シェフのおかげで生かしてもらっているよ”というお言葉はいまも心に響いています。メニューにまつわるお客さまとの数々のエピソードは、学びであり自身のキャリアには欠かせない貴重な財産です。そして料理とはレシピ通りに作り続けるだけでなく、時代や食材、味覚のトレンド、そしてお客さまの声などと共に常に進化するものと捉えています」
数々の経験を経てシェフから料理長になり、宮古島東急リゾートや羽田エクセル東急ホテルを経て、定年後62歳で就任した伊豆急コミュニティーの料飲統括支配人時には、テコ入れの甲斐もあり15年間続いた赤字を黒字化させたなどの功績を果たした。同じころ、料理人をめざしたきっかけとなった15歳でお世話になったアルバイト先(洋食屋)のオーナーシェフが、84歳のいまも新メニューを考案しながら営業を続けていることを知り、忘れていた起業心に火が付いた。
「63歳1カ月、2024年11月。過去につながりのある方々と食を通じて楽しみを分かち合えるコミュニティーを作りたいと思い、東京都町田市玉川学園2丁目に「Chef Sasaki」をオープンしました。洋食をベースに懐かしさと大人の味覚でも楽しめる料理を素材から一つ一つ丁寧に作り上げています。さまざまなお客さまとの交流、素晴らしい出会いと経験を得ることができたホテルでの経験があったからいまの自分が在る。そして、食を通じて楽しく、健康かつおいしい料理を提供していくことが、残りの人生の目標となりました」
ホテルシェフをやり遂げた笹木氏は、ホテルでキャリアを積めたことに感謝しつつ新しい扉を開いた。真摯に築き上げてきた経験があれば、人はいつでもチャレンジできることを体現してくれた。
「Chef Sasaki」
所在地:〒194-0041 東京都町田市玉川学園2-18-22ブレスト玉川学園001
電話番号:042-816-2015
営業時間:Lunh 11:30-15:00 Dinner 17:00-21:00<定休日:水曜日>
オーナーシェフ:笹木浩一
ディナーコース(6,000円)
メニュー
・国産牛のハンバーグステーキ 自家製デミグラスソース(1,780円)
・ホテル仕立てのスパゲッティナポリタン(1,480円)
・栗とキノコのリゾット“スパイス風味”(1,480円)
・魚介のブイヤベース リゾットを添えて(3,800円)
※一例、すべて税込み
「Chef Sasaki」オーナーシェフ笹木浩一氏
(Profile)
1981年4月に東京ヒルトンホテル(現ザ・キャピトルホテル東急)に入社。同コーヒーショップ「オリガミ」のシェフ就任、宮古島東急ホテル&リゾーツ、羽田エクセルホテル東急の料理長、2022年伊豆急コミュニティーの料飲統括支配人。23年㈱国宏技研が運営する「365café」「ハレノヒ食堂」の料理長に就任。24年11月オーナーシェフとして「Chef Sasaki」を開業。