横浜市のホテルの総客室数のうち半数近くを包括する横浜五日会。2023年の横浜エリアはADRがコロナ前の2019年の水準を超えるなど好調に推移している。スポーツイベントをはじめ学会などさまざまイベントが順調に回復している。同会の総幹事である藤本 真二氏、会計幹事の吉田 雄輔氏、広報幹事の田村 亨介氏に横浜のホテルマーケットの現状と今後の見込みについて聞いた。
横浜五日会(写真左から)会計幹事の吉田 雄輔氏(JR東日本ホテルメッツ 横浜桜木町)、総幹事の藤本 真二氏(ラグナスイート新横浜 宿泊部 時間帯責任者)、広報幹事の田村 亨介氏(ホテルリソル横浜桜木町)
横浜市1万室以上が連なるホテル会
■初めに横浜五日会について教えてください。
横浜五日会は創設30年以上の歴史を有しており、毎月5日に会議を開催しているので五日会と名付けられました。現在の加盟ホテルの軒数は昨年4月から3社増えて50社、客室数は1万1369室となっております。加盟ホテルのカテゴリーは、シングルメインや中間層を狙ったビジネスホテル、ツイン・ダブル主体のアーバンリゾートホテルなどさまざまです。
定例会では数字の交換をはじめホテル運営に関わる数字の見方の勉強会も実施しています。また、神奈川県や横浜市、横浜市観光協会の担当者にもオブザーバーで入っていただいて観光政策についても学んでいます。
■入会には条件がありますか。
入会条件はすでに会員になっている2社のホテルからの推薦が必要となります。当会は数字の開示だけではなく情報共有、相互協力という理念があり、基本的には毎月会議に出席していただくことを確認してからご入会いただいております。
■それでは次に昨年の加盟ホテルの稼働率とADRについて教えてください。
横浜五日会全体では稼働率が77.9%、ADRが1万2565円でした。コロナ前の2019年の稼働が86.6%だったので、そこまではいきませんでしたが、ADRは2019年の1万1946円より上がっています。RevPARも2019年に戻ったという感触です。
■マーケットが回復基調に向かったターニングポイントは。
新型コロナの5類移行後、イベント需要が回復基調になったこと、2023年9月にKアリーナ横浜オープンしたことが好影響を及ぼしました。ぴあアリーナMMのイベントもコロナ禍ではキャパシティを50%までに絞っていましたが、いまはフルで1万人規模での開催になっています。横浜アリーナも1万人規模、そのほかパシフィコ横浜でも商談会、学会などが開催されてコロナ前の水準にほぼ戻っています。
また、インバウンドの影響で東京のホテル料金が非常に高くなったことから、横浜に拠点をおいて東京に行くといった需要もあり、ADRを下げなくても稼働が伸びている状況もありますね。
■昨年は一年間押し並べてよかったのですか。それとも浮き沈みがあったのですか。
極端に高い月も落ちている月もなく、ADRであれば2000円ぐらいの誤差でずっと来ていますし増減10%以内で推移しています。
■客層や予約チャネルの変化はありますか。
客層は以前のビジネス中心から、インバウンドも含めてレジャー客の割合が増えています。一方でビジネスの方から、いままで安く泊まれていたのに値段が高くなったというお声をいただきますね。
予約チャネルは個々のホテルで事情は違いますが、やはりOTAが優勢です。インバウンド比率が上がっているのでエクスペディアやブッキング・ドットコムなど海外サイトも増えています。最近、気になるのがインバウンド客が日本のOTAの枠を使って海外OTA経由で入るというのが多くなってきています。リアルエージェントでもそういうパターンがあります。
また、予約の入り方はリアルエージェントが一番早く、週末が早くに埋まってしまうこともあります。それを止めたくても契約上止められない状況です。
今後もイベント需要を実に捉え高単価を実現
■昨年はコストの高騰が課題となっていたようですが、昨今はいかがですか。
やはり物価が高騰しているのでりのすので、朝食代やラックレートの値上げを検討しているホテルもあります。
しかしながら、いまは宿泊料金を上げる幅が大きくなっていて、ラックレートを超える価格で販売しているホテルも多くなっており、利益率も上昇しているのでコストとのバランスが改善しているホテルも多いと思われます。
■人手不足についてはいかがでしょうか。
2019年として比較して2023年がそこまで人が足りないという感覚ではないと感じています。もちろん人が足りない施設もあり、チェーンなどは回し方をいろいろ考えられていると思いますが。タイミーを活用しているところもあるようですね。清掃などはフロントに比べると隙間バイトも使いやすそうです。
■人手不足を補うために、積極的にDXに取り組むホテルも見受けられますか。
例えばJR東日本ホテルメッツはセルフチェックイン機をすべてのチェーンホテルに導入し、リモート接客も行っています。通常業務の中でペーパーレス化も進めています。キャッシュレスを進めているホテルもたくさんあると思いますが、現金を取り扱わないので人手不足解消にもつながっています。例えばOTAなどでWEB決済や事前カード決済を行っていますが、その比率がもっと増えれば、ホテルが領収書を出すこともなくなりますし、チェックインも端末を使って30秒以下で済むことになります。
こうした業務をDXで効率化し、エントランスでのお出迎えやお見送りに人手をかけることで差別感を図ることもできます。そのような転換もあると思います。
■これから注目しているイベントなどがありますか。
今年に限った話でありませんが、やはり日産スタジアム、横浜スタジアムでのスポーツイベント、ライブなどです。年末のぴあアリーナMM、Kアリーナのコンサートなど集客力のあるイベントには注目しています。横浜エリアのイベントは宿泊料金の高単価につながりますから確実に集客に結びつけようと考えています。イベントは毎年同じようなものが開催されるので、現場ではイベントが決定したタイミングで調整します。間違いなく入る月は狙って、稼働が落ちるときはがまんしながら前年を上回る数字を残していきたいと考えています。
また、東急新横浜線が開通して東京エリアとつながったので、新横浜に泊まって東京のイベントに行くという需要も増えるのではないかと期待しています。
■最後に今年の稼働、ADRなどの予測をお聞かせください。
高単価で稼働はそこそこという流れは、おそらく続くのではないでしょうか。稼働率100%でADRが1万円を割るよりも、稼働率70%でADRが1万8000円の方が効率がよいので。
2024年は業績目標も前年より高くなるので、それを目指すにはADRを昨年より平日でも1000〜2000円上げるなど高く設定することで対応するのではないかと予想します。