1100ホテル以上のホテルが加盟する全国規模の宿泊団体として、会員ホテルの価値向上を支援すると共に、観光立国の実現と地域の発展に寄与すべく活動している一般社団法人全日本ホテル連盟(ANHA)。その中でも関東支部は最も多い会員数を擁する支部となっている。ここでは関東支部支部長の服部 公雄氏に同会の活動内容やコロナ後の東京を中心とした関東エリアのホテルマーケットの動向、今後注目するトピックなどについて伺った。
一般社団法人全日本ホテル連盟
関東支部 支部長
服部 公雄氏
(お茶の水イン 専務取締役支配人)
会員ホテルの価値向上を支援、観光立国の実現と地域の発展にも寄与
■全日本ホテル連盟の概要と、関東支部の加盟ホテル数を教えてください。
全日本ホテル連盟(All Nippon Hotel Association=略称ANHA)は1971年11月に全日本ビジネスホテル協会として創立し、その後、全日本シティホテル連盟に名称を変え、創立50周年を機に2021年4月1日、現名称となりました。50周年を機に連盟の理念として「MVV+S(ミッション、ビジョン、バリュー、ステートメント)」を策定しました。時代のニーズを捉え革新性を持って会員ホテルの価値向上を支援するとともに観光立国の実現と地域の発展に寄与することをミッションに、会員ホテルの成長と挑戦を促し、新たな風を起こすイノベーターになることをビジョンに掲げています。
全国の加盟数は2023年12月末時点で1216ホテル、総客室20万281室です。連盟では全国を8ブロックに分けて活動しており、関東支部は405ホテルが加盟し、このうち東京エリアが291ホテルとなっています。
■入会に際して条件がありますか。また、どのような活動をされていますか。
入会はホテル旅館業として登録されていること、謄本や設備の概要を報告していただくことなどを前提に審査しています。会員になられましたら、所在地の支部に入って活動していただきます。活動内容としては、経営に役立つさまざまな情報の共有やセミナー、意見交換などを行っております。
リアルな会合として、例えば昨年は関東支部の理事会を年6回、研修部会では講師をお招きした講演や注目のホテルや新規ホテルの現地視察などを行う研修を年間3回実施しました。1月には賀詞交歓会や意見交換会も行っています。
ここ数年はインボイス制度、改正旅館業法、障害者サービス解消法など国からの情報も多くなっており、それらについていち早くお伝えするとともに、弁護士や官庁の方に来ていただいて講演会も開催しました。そのほかNHK受信料の団体割引きや、連盟の顧問弁護士、社会保険労務士、税理士事務所との無料相談も可能です。
そしてやはり会員ホテルの方たちが直接顔を合わせて話すことで、関係性を深めてネットワークを構築できることが大きなメリットと考えております。
■次に関東支部の営業状況について開示いただけますか。
関東支部の平均稼働率は89.2%、東京エリアが平均91.0%となっています。具体的なADRとRevPARについてはホテルによってばらつきがあるため非公開です。
東京ではRevPARは2019年比で20%以上上がっていますね。3月ごろから徐々に上がっていき、5月8日のコロナ5類移行以降は、インバウンドが入ってきて急速に回復しました。
■現在のインバウンド率どのぐらいなのでしょうか。
東京で言うと、秋葉原エリアの中間的なホテルでは85%に及ぶようなホテルがいくつかあります。御茶ノ水周辺のホテルはほかのエリアと比べてインバウンドが少ないなど、東京の中でもエリアとホテルによって状況はまったく違います。ちなみに当ホテルでは5〜10%ですが、インバウンドはノーショー、直前キャンセルなど不確定要素が多いので、事前決済のみで予約を受けるなどの対応をしています。
■会員ホテルの東京エリアのADRは総じて高いのでしょうか。
エリアのマーケットがそうした方向を向いているので、それに牽引されているというのが実情だと思います。具体的な数字は申し上げられませんが、少なくとも30%以上は確実に上がっています。“コロナ禍で休んでいた3年間”と言っていますが、これを取り返さなければならないので正直言ってありがたいと感じています。
■関東支部の中でも東京一強状況ですか。
需要で見るともちろん東京が多いのですが、関東の政令指定都市も高く、高崎、前橋など新幹線の駅がある地域や地方でも大きな工場があるところなども需要がありますね。
■ADR上昇の要因は何だとお考えですか。
ホテルを取り巻く環境だと思います。インバウンドの増加、円安も含めて海外に比べると日本の宿泊料金がまだまだ高くないことなどです。これまでホテルが価格を上げられなかった原因はOTAが広まる中で価格競争に陥ってしまったことだと思います。稼働率至上主義で客室を安売りしてしまったホテル経営者の大きな責任だと思っています。
また、人件費、水道光熱費、食材費などが高騰していることも一因で、多くのホテルでは稼働率重視ではなくADR重視になってきています。これらはある意味、災い転じて福をなすと言ったところで、疲弊したホテル業界にとって好機といえるでしょう。
大切なことは個々のホテルが自身のランクを判断し、適正価格で販売することです。お客さまがその値段に納得していただけるのか、もっと安くていいのではないかと思われるのか、そこが分かれ目です。お客さまが満足して次回も選んでいただければ、結果的として販売価格を上げられるようになると考えています。
今年も好調が継続、東京の業績は過去最高の見通し
■足元で課題とされていることはありますか。
やはり人手不足です。フロント、飲食、清掃などすべての部門で不足しています。それによって、空室があるのに販売できない、レストランを開けられないというホテルが少なくありません。エコ清掃などについては先行して進めているチェーンホテルがあるので、会議の中で話題にもなっています。
従業員の離職率を抑えるために、余裕があれば先に人件費を引き上げることもできますが、コロナ禍の経営悪化から難しいという企業も多く、悪循環になっていると思います。PLだけでなくBSを改善して経営健全化を早期に実現しなければならないでしょう。
そのほか物価が高騰しているので、営業に関わる経費が値上がりし、販売価格に転嫁せざるを得ない状況にあります。
■ビジネスでホテルの宿泊料金が高騰して東京や大阪で泊まれないという悲鳴が聞こえますが、出張費の目安を協会として提示することは可能なのでしょうか。
それを申し上げるのは非常に難しいですね。観光庁とお話ししますが、出張費は企業の経費なので、観光庁もそれを補助するわけにはいかないという考えです。今度、交際接待費の飲食代が5000円から1万円に上がりますが、出張費も引き上げられるべきだとは思っています。
■最後に、今後の見通しについてお聞かせください。
今年も好調が継続すると見ています。とくに東京の業績は過去最高の見通しです。その理由は世界的な観光需要の拡大と円安、そして政府のインバウント誘致政策などです。国内需要に関しては国や地方自治体の観光政策により増加が期待できるでしょう。
2025年の大阪万博開催は、東京にもインバウンドを含めた集客に期待できると思います。東京ドームの築地移転計画やリニア新幹線の早期開業などにも注目しています。