金沢市内の主要41ホテルが参加する“かがやき会”。コロナ禍においては、行政に働きかけて支援策を引き出すなど積極的な取り組みが注目された。本年元旦に発生した能登半島地震では被災者の受け入れに一丸となって取り組んだ“かがやき会”。同会の世話人でホテルビスタの支配人である菅 和夫氏に、金沢エリアのホテルマーケットの現状や今後の展望などを伺った。
金沢ホテル会 かがやき会
菅 和夫氏
(ホテルビスタ金沢 支配人)
宿泊主体型のホテルを中心に金沢の41ホテル、7795室が加盟するかがやき会
■初めに「かがやき会」について教えてください。
ホテルビスタ金沢が2018年5月に開業した際に、近隣ホテルとの情報交換の場を作りたいという思いから2018年6月に「かがやき会」を設立しました。金沢のホテル業界全体が発展していくことを趣旨とし、数字の交換に加えて、お互いのホテルがさまざまな情報を共有しています。
加盟ホテルは宿泊主体型のホテルが中心ですが、アッパーグレードのシティホテル、カプセルホテルなどバジェットタイプのホテルも入っています。会費制ではなく、皆で勉強して数字交換しようという組織なので、ホテルによっては担当者レベルで参加されているホテルもあります。当初12ホテルからスタートし、2024年度は41ホテル、7795室まで増えました。
■かがやき会の具体的な活動内容とは。
毎月の客室稼働率、ADR、ダブルオキュパンシーの共有に加え、3カ月に一度は顔を合わせてさまざまな課題解決に向けた意見交換やOTA、リアルエージェントを招いての勉強会なども実施しています。オンハンドなどの情報が開示できるというホテル同士は共有グループで情報交換の場を広げています。
2023年は業績が好調に推移、エリア全体で稼働率を抑えて単価を上げる動き
■昨年の稼働状況などはいかがでしたか。
2023年の稼働は69.4%、 ADRは1万239円、RevPARは7230円でした。2022年は稼働54.9% ADRは8306円、RevPARは4526円でしたからすべてが大幅に上がりました。コロナ前の2019年は稼働72.1%、 ADR 9193円、RevPAR 6630円でしたので稼働率はまだ足りていませんが、ADR とRev PARは上回っている状況です。
■業績好調の要因は何だとお考えですか。
全国旅行支援の効果もあり単価の底上げができました。コロナ前から金沢市内のホテルは安売りをしたくないという気持ちはあったのですが、そうは言っても稼働を取らなくてはならないホテルも多くたたき売り状態でした。
それが旅行支援の効果で想定の金額に落ち着きました。昨今は様々なコストも上がっておりますので稼働を追うのではなく、ADRを上げて利益率を増やすホテルが多くなっています。一人当たりの適正な単価を見直して定員まで顧客を入れること、シングルが売りきれたらダブルのシングルユースを提案するなどアップセルができるようになったのもADRの上昇につながりました。どこかが安売りを始めると一気に値崩れを起こしますが、いまは周りの販売状況を見て極端に落とさずに動かせている状況です。
■一方、稼働が2019年に届かない理由は。
人手不足が影響しています。フロントもそうですし、満室にすると清掃が追いつかなくなります。稼働率が7割を超えると売り止めにしていたホテルもありました。連泊清掃なしといったスタイルにすれば、各ホテルがもう少し稼働上げられるようになるかもしれません。
かがやき会が率先して能登半島地震の被災者へ対応
■2024年は元旦から能登半島地震が発生し、金沢にも多大な影響があったと思いますが、どのようにご対応されたのですか。
当ホテルではまず、地震直後にその場で館内の安全を確認した上で、ライングループを使って従業員全員の無事を確認しました。かがやき会でも情報を共有しましたが、地震によって働いている最中に従業員がけがしたという話は出ませんでした。
■かがやき会で二次避難者を積極的に受け入れようといった動きはあったのですか。
1月7日に輪島方面からの道路が一部復旧して、大勢の方が金沢に二次避難してくるという情報が入りました。ただ、行政から避難所としてホテルの部屋を用意するようにという指示はまだなく、民間ホテルが自主的に避難所として開放することを決めました。とりあえず無償で泊まってもらい、後で石川県に助成金を相談することにして行政に先行して動いたのです。
また、金沢市内で民泊を展開している会社から、珠洲の企業が宿泊費を出すので避難者を受け入れてほしいとの連絡も来て、会員ホテルに声をかけて複数のホテルに協力してもらいました。当ホテルでも一番多いときで90人ぐらいの被災者を受け入れました。
個々のホテルだと、どのタイミングで手を挙げてよいのか、受け入れる意向をどうやって被災者に届けるのかが分からなかったと思います。今回はかがやき会を通じて情報を共有し、発信できたのではないかと思います。結局、行政から正式に避難者の受け入れがあったのは1月下旬でしたね。
■ホテルが率先して力強く受け入れたというのが、避難者にとっても心強かったでしょうねと。
そうですね。当ホテルも避難所で冷たい弁当やカップ麺などを食べていた被災者の方々に、1月はホテルのゲストと同じ温かい朝食メニューを無償で提供しました。年配の女性の方がよろこんで泣きながら召し上がっていたのが印象に残っています。かがやき会の加盟ホテルでも2割程度が無料朝食を提供し、三井ガーデンホテル金沢では夕食も提供されていたようです。また、被災者に年配の方が多いので、ホテルによっては精神面や体力面のケアとして朝、一緒に散歩をしたホテルもあったと聞きました。
災害時の備えの大切さを実感
■今回の経験でお感じになったことはありますか。
災害時の避難所としてのホテル利用のマニュアルを行政が初めから準備してくれていれば問題ないんですけど、今回は最初に石川県から問い合わせがあり、ホテルの情報を出したところ音沙汰がなく、数日後に電話で確認したら市町村に業務が移管されたとのこと。その後さらに民間企業に業務委託されました。その間、2週間ぐらい経っており、県の指示を受けてすぐにホテルが動けるようなマニュアルがあれば、もっと早く被災者を受け入れられたのではないかと思っています。受け入れについても1カ月ごとに要請が延長され、直前に部屋数を追加されることもあって困っています。すでに売れている部屋もありますので。ある程度の期間、早めに要請してもらえれば助かるのですが。また、被災者を受け入れるために部屋開けて待っているのに実際には来られなくて、ニュースではホテルが拒否しているかのような空気で伝えられ、そうした誤った情報が拡散されるSNSの弊害も感じました。
そのほか災害時にホテルに避難される方向けに、行政から毛布や食料などの備品を預ける仕組みがあればよいと思いました。ただスペースには限りがあるので市内のどこかにストックしてもらい、事態が起きたら避難所ホテルがそれらを取りに行くなど。ほかのホテルからも備蓄と避難者の受け入れ体制を統一化してほしいという声が上がっているので、行政にお伝えしたいと思っています。
ホテルはお客さまの命を預かる場だと思っているので、今回は災害時に本当にそうできるのかと考えさせられましたね。
■最後に2024年の見通しをお聞かせください。
円安でインバウンドが戻るにつれて客室料金が上昇してきています。2023年は、12月ごろまで小松空港が国際便を受け入れていなかったので、台湾からの集客が非常に少なくインバウンドは2019年の水準に到達しませんでした。2024年以降は海外便も復活し、回復傾向であることに加え団体が増えています。今年は確実に2019年を超えると見込んでおり、好影響をおよぼしてくれると期待しています。