関西エリアのフラッグシップホテルであるアートホテル大阪ベイタワーを率いる総支配人の守屋 浩二氏。フルサービスホテルとしての存在感を高めるべくさまざまな施策に取り組み利益拡大を目指している。F&B分野で培った強みを生かす采配や長所を生かした人材登用、今後のビジョンについて聞く。
株式会社マイステイズ・ホテル・マネジメント
ビジネスマネジメント 部長
アートホテル大阪ベイタワー・
空庭温泉OSAKA BAY TOWER 総支配人
守屋 浩二 氏
■初めに現在の業務内容について教えてください。
大阪市弁天町にある「アートホテル大阪ベイタワー」と館内の温浴施設「空庭温OSAKA BAY TOWER」で総支配人を務め、本社ビジネスマネジメントの部長として「奈良ロイヤルホテル」、「ホテルマイステイズ松山」も統括しております。主に売上、利益の最大化に繋げるプロモーション強化や経費見直し、また、積極的な中途採用による人材育成にも注力しております。
■守屋さんのホテルマンとしてのキャリアと総支配人に就任されるまでの経緯をお聞かせください。
前職はリーガルロイヤルホテル京都でF&B部門に約18年勤務し、2018年から総支配人室で数値管理や企画広報を担当しました。ここでホテルの利益構造をはじめすべての数値関係に携わったことが起点となり、コロナ禍での各種取り組みを経験したことによる自身のスキルが上がったことが転職活動へとつながりました。
今回、マイステイズ・ホテル・マネジメントは全国展開し、中途採用者でも活躍できるというところにひかれて、自分自身を試したいという思いもあり、2022年8月に思い切って転職しました。
当社では前職の技量が認められ、総支配人未経験という立場でありながら、フルサービスで中規模のホテルマイステイズ松山に総支配人として着任。そして今年3月、アートホテル大阪ベイタワー兼空庭温泉OSAKABAY TOWERの総支配人に就任しました。
■アートホテル大阪ベイタワーは関西におけるフラグシップホテルと承知しておりますが、どのような特徴があるのでしょうか。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)をはじめ人気スポットが集まる大阪ベイエリアに位置する51階建て高層シティホテルです。客室やホテル最上階・地上200mのビュッフェレストランからは刻々と移りゆく大阪の表情が一望できます。
和と洋、伝統とモダンを融合させるデザインコンセプトとし、大阪の粋を感じさせるスタイリッシュで広々としたロビーには光と和を感じさせる「竹」に見立てた格子も特徴です。客室はすべて23階以上の高層階に配置されることもあり、夜景の綺麗なホテルとしても高評いただいております。スタンダードタイプをはじめ46階以上の高層階に位置するスカイフロア、遊び心あるコンセプトルームなどバリエーション豊かな460室を用意しています。
■コロナ禍からアフターコロナまでの営業状況の推移はいかがですか。
ベイエリアに立地するためコロナ禍ではUSJの営業状況に左右されました。また、3~4割がインバウンド需要だったので、客室稼働が10~20%という厳しい状況もありました。レストランもクローズしましたが、その中でも新たな需要の取り組みとして2020年からデリバリーを開始し、新規顧客獲得、一定の認知度を上げることができたかと思います。
こうしたコロナ禍を経て、全国旅行支援などの政府の支援策もありゲストが戻り、宿泊と合わせてレストランも活性化してきました。いまは2019年を超える売り上げと利益構造の再構築を目標に取り組んでいます。2023年度は稼働率80%まで回復し、2019年比ではADR16%UP、宴会も96%ほど回復し、ホテル売上では2019年を超す勢いまで成長いたしました。
宿泊では新たな取り組みとして着任早々に全室禁煙化を実施しました。これにより稼働とレートが安定し、教育団体の受注がしやすくなりますので。
■さまざまな需要を取り込むお考えなのですね。そのほか重視されていることは。
ホテル運用において利益構造の仕組みの意識は高めたいと思っております。
特に客室部門では一定のADR、販売価格を維持することを重視しています。稼動重視で価格を下げて販売する時期もありましたが、物価高騰や市場価値の変化もあり、ニーズに合わせた価格設定に注視しています。いまはOTA等販売価格の比較もできることから、価格を下げすぎると、繁忙時期での価格設定や本来のターゲットとは違う利用層の需要により、チャンスロスの懸念もあります。稼働率が多少落ちたとしてもADRを維持すればあまり影響がないことをスタッフに再度教えているところです。
■総支配人はGOPをいかにして生み出していくかを考える役割だと思いますが、どのように舵取りしていくお考えですか。
フルサービスのホテルで一定のサービスをアルバイトだけで安定的にできるかというとそうでもなく、社員や長く勤められた方のベテラン的な知見も必要です。その人を確保、維持するために、他の経費を再度見直しできないかと考えています。
例えばレストランであれば食材が高騰しているので、それにあった商品価値の再値付けやSDGsに視野を向けたフードロスによる原価管理など、いままでのコスパ重視から良いものは一定の価格を設定することによって利益を確保することが重要です。原価計算はビュッフェ、鉄板焼、カフェ、和食で考え方も違うので、店舗に合わせた利益を確保する考え方を浸透させるよう総料理長とレストラン支配人も含めてマネージャーや料理長たちにも店舗別のミーティングで課題の共通認識を行なっております。
また、時間帯によってプロモーションを変えるのも一つの方法です。例えば鉄板焼であれば、大阪は激戦区なのでランチはマーケット相場より少し単価を落としてでも回転を優先させ、ディナーはランチとは逆に高単価を狙っていくように接待や顧客の方々向けのメニュー開発も必要と見ています。
■そこで利益の最大化を目指すということですね。
私も以前であれば、売り上げを上げないと利益が出ないという発想でしたが、コロナ禍において利益を出すには何をするべきかを考えるマインドを持つようになりました。しかし、実際に取り組むにはそもそもの考え方、意識改革が必要となります。口頭では感情論に双方なりがちになりますので、数値的根拠、蓋然性をもって人件費やKPI、時間帯別利益などを分析して提示したところ、驚くスタッフが多かったですね。売り上げが上がっていて儲かっていると思っていた鉄板焼が実は時間帯で見てみると利益ギリギリとか。
■スタッフに理解してもらうためには数字を細かく見せて、考え方を変えてもらえるよう落とし込んでいくわけですね。
利益が出るとほかでお金を使えるようになりますので、削った分はちゃんと投資する。もちろんすべて投資はしませんが、プロモーションを仕掛けたり、スタッフのモチベーションアップや新規顧客の獲得にもつながるよう、一定の利益を確保した上で新しい取り組みを実施しています。そうすることにより、今まで以上の成果が成し遂げられるかと見込んでいます。
私が着任して最初の2~3カ月は、この人は何を言っているのだろう?というスタッフの反応が多かったです。しかし、なぜ必要かも徐々に理解が進み、いまは積極的にこうしたいというフラッシュアイディアも各店舗からでてくるようになりました。