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【コラム】旅のお酒、季節のお酒:気候変動

2023年07月31日(月)
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暑い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。前回のコラムでは、熟成における気候について触れました。今日は気候変動について今お話が挙がっていることについて触れてみようと思います。

大西洋南北熱塩循環がやばいかも?というニュースをつい最近ご覧になられた方もいらっしゃるかと思います。Ditlevsen & Ditlevsenがネイチャーコミュニケーションに出した論文が話題になっています。

特にワインの世界では「海流」が鍵となる産地が知られています。海流だけでなくENSOのような海水温と気候の関係もあります。そうした海流が止まる、もしくは影響の仕方が変わるとなればどうなるでしょうか?
 
例えば、ボルドー。ボルドーは緯度の割に、カベルネなど晩熟の品種が栽培されています。また、雲であったりとフランス西岸部は海からの影響が大きい地域ですが、これが変化するとどうなるか。単純に味わいの変化だけでなく、例えば遅霜の害や生産量、もっと言えば、フランスの農業全体に影響するわけなので、政治や経済的な変化も考えられます。
 
こうした変化を予期した際、その「バックアップ」として「投資」が進む産地もあります。リスクヘッジや新しい「金の生る木」ではないですが、先行投資で利を得ようと考える方もいらっしゃると思います。
 
それと同じく、「手に入らない」希少性を鑑みて購買が進む産地もあるでしょう。イングランドのスパークリングなどは、気温が大きく下がるとスタイルの変更か、栽培自体違う品種に変えるなどが出てくるかも知れません。今のスタイルでの販売が出来なくなると、当然、希少価値が高くなるので急激な在庫変動や価格変動が生じる可能性も考えられます。実際、輸入業者にいた時も同様なことがあり、新芽が出る季節や受粉の季節に霜や雹、天候不順が続くと収穫減リスクと価格高騰を予期して生産者にアロケーションの相談をすることがあります。
 
もちろんワインだけではありません。ウイスキーにしろ、農産物を用いたお酒には等しく同様のリスクがあり、それをどのようにマネージメントしていくのかが生産者にとっても求められます。原料の不作が続けば、原価は高騰しますし、ウイスキーのような貯蔵によって付加価値が生まれる酒類にとっては、キャッシュフローの問題が重くのしかかってきます。
 
スーパーマーケットのような小売店では低価格のワインがなくなったり、もしくは軒並み値段が上がるかも知れませんし、代替産地で同様なワインが仕入れられ大きな棚替えが起こるかも知れません。これによって、消費者の飲酒そのものの見直しが加速する場合も考えられるかも知れません。
 
先日、ウイスキーの生産者に1980年代の「ウイスキー・ロッホ」を踏まえながら、今の過熱しているウイスキー需要の急激な低下の可能性についてお話をお伺いしました。東洋と西洋では、フォーキャストに波(リスク)があることについての文化的な相違がみられるようなのですが、何となくそれを想わせるような解答だったのが思い出されます。
 
その一方で、今年の暑さは過去12万年のうちで最も暑いかもしれないというような話も聞かれます。暑くなるの?寒くなるの?どっちなの??と悩むところです。情報の取捨選択もですが、きちんと出展元ソースの問題点やそれによって「引き起こされるであろうリスク」を自分なりに考えてみることが重要なのかも知れません。
 
とは言え、今の段階では夏らしさが全開なので、どうしても見た目や味わいに「涼」を求める商品が目に入りがちです。憂いを払う、暑気払いなどは良い例だと思います。
 

左から順に
合名会社 川敬商店 黄金澤 玉響山廃純米酒 うすにごり 原酒(宮城)
加藤嘉八郎酒造株式会社 大山 特別純米 夏の雪 にごり(山形)
御祖酒造株式会社 遊穂 生酛純米 玉栄 生原酒(石川)
平和酒造株式会社 梅酒 べびぃ 鶴梅 ノンアルコール(和歌山)

 

NIKIYA FARM&BREWERY
NIKIYA WHITE(weizen) ABV:5.0%
北海道の仁木町は隣の余市と併せてワイナリーも多い土地ですが、暑いとついついビールに手が伸びてしまいます。さくらんぼが旬でした。

 

ビジュアルというのも重要で、分かりやすい例でいえばラベルですが、細かな点でも例えば先日話題になった、メルカリが行った「商品ページの¥マークを小さくしたら購入率が大きくアップした」(アプリマーケティング研究所 2023)というようなものまであります。
 
ホテルを含むサービス業界では、A/Bテストを行う事は難しいかも知れませんが、販売促進に繋がる試行錯誤というのは露骨でない限り消費者としても興味深いのではないかと思います。
 
日々の試行錯誤と将来のリスクヘッジ、行うことが多くて大変ですが、事FBに関しては、環境の影響が大きい事。そして、プールの水流のように、一度動き出すと中々その流れを変えたり抗ったりするのに労力を要すること。普段忘れがちですが、こうした危機感に訴えるニュースを見た際には、そうした流れや、その流れがもたらすもの(再帰性)について一考するのも必要なのではないかと思う次第です。

 

【参考文献】
Ditlevsen, P., Ditlevsen, S. Warning of a forthcoming collapse of the Atlantic meridional overturning circulation. Nat Commun 14, 4254 (2023). https://doi.org/10.1038/s41467-023-39810-w
Orihuela-Pinto, B., England, M.H. & Taschetto, A.S. Interbasin and interhemispheric impacts of a collapsed Atlantic Overturning Circulation. Nat. Clim. Chang. 12, 558–565 (2022). https://doi.org/10.1038/s41558-022-01380-y
リチャード・E・ニスベット(2004)『木を見る西洋人 森を見る東洋人』ダイヤモンド社
エリン・メイヤー(2015)『異文化理解力』英治出版
アプリマーケティング研究所(2023)『値段の「¥マーク」を小さくしたら購入率が大きく改善された。機能は「体験」で成果が激変する。10周年の「メルカリ」に聞く新機能の開発の裏側。3つの成功施策。』, https://markelabo.com/n/ne9bed1488bda
柳 淳也(2023)『揺さぶる経営学』中央経済グループパブリッシング
 
担当:小川

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