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【レポート】あのワインを用いた驚きの体験:渋谷ストリームエクセルホテル東急ブレンドワイン企画第二弾!「ブレンドワイン“サマーストリーム”」

2023年07月10日(月)
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待ち望んだ企画の続編
以前、「ワイン販売の可能性」として渋谷ストリーム エクセルホテル東急「ブレンドワイン“ブリリアント”バレンタインプラン」を紹介した。記事中では、企画の発想から既存ワインをブレンドして新しい表現として販売することへのチャレンジに至るまでをお伺いし、市場への新しい価値提案として素晴らしい取組みであると紹介をした。それから5カ月、継続を待ち望んでいた第2弾が企画された。
 

今回のテーマは「サマーストリーム」で、夏らしい「ロゼ」と「サステナブル」を鍵にしてブレンドがなされている。中でも、ボージョレ・ヌーヴォーが用いられている点が非常に好印象だ。旬を過ぎたものは販売が難しい中、ブレンドに用いることでそれを回避することができる。

日本ならではの課題
少し脇道に逸れるが、日本のスーパーは海外に比べて多様性がある(例えば、横山(2019)第1章など)。大手スーパーから地元密着のスーパーまで様々だ。特に地元密着のスーパーには、旬の食材や地場産の食材や総菜が並び見ているだけでも楽しい。大手数社の画一的な販売ではなく多様性が担保されている背景には、「旬」や「鮮度」といった要素、流通も関係している。生鮮食品はもとより、ビールなどの酒類も賞味期限が厳しく管理されている。だからこそ、近年RFIDタグを用いた食品ロス削減への取り組みなど積極的になされている。
 
「旬」を過ぎた売れ残りは日本では中々販売が難しい。三浦俊彦氏は日本消費者のタフさの背景の一つとして「清浄という美的価値」を指摘している(三浦 2013)。多頻度小口配送が発達した日本では、常に新鮮なものを過不足なく配給できるようなシステムが構築されており、我々はその恩恵に慣れてしまっていると言える。何かの折に、棚から商品がなくなる映像が放映されるが、コストコや日本撤退をしたメトロのような在庫保有数と比べると、多頻度小口配送が全国でいかに運用されているかが理解できると思う。
 
さて、そんな「旬」に厳しい商品を販売するにはどうすれば良いのか。一つは在庫リスクを減らす方法で、これは読者も採用されたことがある方法ではないだろうか。他にも、食品ではよく見られるが、加工する方法も考えられる。生食が無理であれば、火を通すように、食材を別の方法(調理)で用い、新しい別の商品として販売することができる。
 
しかし、食材の場合は可能かも知れないが、完成された製品の場合はどうだろうか。缶詰を例にして考えてみたい。缶詰は保存食として優れており、そのままでも食べることができるものも多い。もしこれを読者の方々が消費者へ提供する場合、缶のまま出すことは良しとされないのではないだろうか。器を変え、手を加え、場合によっては他の食材を用いて提供されるのではないだろうか。ここで考えて頂きたいのが「では、なぜそのままでの提供ではダメなのだろうか」ということである。ここにサービスの本質の一つがあるように思われる。
 
瓶ビールでも、そのまま瓶とグラスを提供する場合と、その場でグラスに注いで提供する場合、どちらが消費者の満足度が高そうであろうか(勿論、場合によりそのままの提供が適していることもあるが)。あるビールにはライムが添えられることがあるが、他のビールではそうしたことは稀であるのはなぜだろうか。マーケティング的な意味もあるが、先入観や固定概念で「そうあるべき」と思い込んでいることはないだろうか。何気なく行っているサービスもあれば、サービスとして拡張できる場合もあるのではないだろうか。

前回に続き期待をしていた、渋谷ストリーム エクセルホテル東急の「ブレンドワイン“サマーストリーム”」は、「旬」を過ぎた商品を「サービス」として上手く蘇らせた取り組みだと言える。
 

左からソムリエの吉田 康隆氏、シェフの高橋 啓介氏、バーテンダーの西平 昇氏
左からソムリエの吉田 康隆氏、シェフの高橋 啓介氏、バーテンダーの西平 昇氏

前回のブレンドは「ワインという手を加え難い商品の販売」の可能性を広げる試みであったが、今回のブレンドはそこに「サービス」としての「体験」がより鮮やかに加えられており、更には、フードロスという社会課題への挑戦としてアップデートされている。今回も貴重な試飲試食の機会を頂き、ソムリエの吉田 康隆氏にもお話をお伺いできたので、レポートしたい。

「ブレンドワイン“サマーストリーム”」
元々は前回のブレンド企画でお話をお伺いした小池氏と「シャルドネ×シャルドネ」でブレンドを考えていたそうだ。しかし、同一品種だと表現の幅が広がらない。夏なのでトロピカル感も欲しいと試行錯誤し「ニュージーランドのピノグリージョ」が選ばれた。そこに、テーマとして挙げていた「サステナブル」に、夏らしいロゼという、「フードロス」の観点から昨年のボージョレ・ヌーヴォーを採用することとなったそうだ。
 

左から、ジェイコブス クリーク リザーブシャルドネ、グローブミル マールボロ ピノグリージョ、ラブレロワ ボージョレ・ヌーヴォ リッチ・プレス 躍YAKU 2022
左から、ジェイコブス クリーク リザーブシャルドネ、グローブミル マールボロ ピノグリージョ、ラブレロワ ボージョレ・ヌーヴォ リッチ・プレス 躍YAKU 2022

ブレンドにより香りの表情がとても豊かで、3品種それぞれのニュアンスを感じることができる。ベースのシャルドネに、ピノグリージョの熟れた果実の香りが華やかに香る。そこに、ロゼよりもより赤らしい香りがうっすらと香る。味わいにもそれが感じられ、ほんのりとロゼとは違う、ボージョレ・ヌーヴォーの存在感が感じられるのが新鮮だ。

今回のブレンド、ブレンドされたワイン自体の味わいもさることながら、オードブルとプティフールとの組み合わせることによって、より「ブレンド」の良さを感じることができるようになっている。
 
オードブルには「白桃のモッツァレラチーズ 生ハムのマリネ」「帆立のカルパッチョ ビーツとチェリーのビネグレット」「豚ロースのコンフィ ライム香るリンゴソース」の3品が、プティフールには「ボージョレ・ヌーヴォーの琥珀寒」が提供される。
 
白桃のフルーティーさがワインに勝つのではないかと心配したが、ブレンドされることで互いのもつニュアンスがクッションになり、より初夏を感じさせてくれるトロピカルな香りとほんのり甘酸っぱさが際立つ。豚ロースのコンフィは、添えられているリンゴソースがとても良い仕事をしており、ベースのシャルドネとピノグリージョの間に新しいアクセントが生まれ豚ロースの甘味を綺麗に引き出してくれている。帆立のカルパッチョもワインがブレンドされていることにより、ホタテ自体のテクスチャーとミルキーな甘味を感じやすくなっている。
 
最後に提供されるプティフールにも驚きが隠されている。ボージョレ・ヌーヴォーを用いた琥珀寒なのだが、琥珀寒のみで食べると砂糖菓子の風味が強く、ボージョレ・ヌーヴォーが用いられていることが分からなかった。しかし、ブレンドワインと一緒に食べると、なんとワインのアフターにボージョレ・ヌーヴォーがしっかりと感じられるようになっている。ブレンドの中では、ほんのりと風味を感じるだけであったが、琥珀寒と合わせることで、ヌーボーらしいキャンディ感がしっかりと表れ、ブレンドワインの後味が、まさにボージョレ・ヌーヴォーを飲んでいるかのように錯覚してしまう。これには驚きの表情を隠せなかった。
 

ブレンドという企画を超えて
前回の「ブレンドワイン“ブリリアント”バレンタインプラン」はブレンドという、ある種ワインを販売する上で、タブーにも近い商品同士のブレンドにより、販売の可能性を広げた点が素晴らしかった。今回の「ブレンドワイン“サマーストリーム”」は、さらにブレンドをサービスの次元で拡張した試みだと言えるのではないだろうか。「旬」を過ぎた商品を上手く用いることで、「旬」という文脈から商品を剥がし、新しい体験価値としてパッケージングを行った試みと捉えられると思う。
 
様々な企業が「サステナブル」な商品開発や取り組みを行っている。小売業界やホテル業界には「フードロス」という大きな課題が横たわっている。常々、酒類販売においては、流通の上から下までのコンセンサスやデザインディスコースを構築する必要があると感じている。今回この記事で小売に触れたのにもそうした意図がある。酒類市場を大局的に見る場合、業務用市場だけでなく小売市場を知ることも必要である。
 
日本では長くボージョレ・ヌーヴォーを楽しんできた歴史がある。普段ワインを購入しない消費者も年に1度のお祭りのようにボージョレ・ヌーヴォーを購入することがある。販売側からすれば、クリスマス前に売り切りたい商材であり、需給の見極めと仕入れが難しい商材でもある。今年も夏前のこの時期から予約受注が始まっている。しかし、「旬」を過ぎようとも、柔軟な発想次第で、新しい価値に生みなおすことが可能である。渋谷ストリームエクセルホテル東急ブレンドワイン企画第二弾の「ブレンドワイン“サマーストリーム”」はまさにそれを体現してくれている。
 
ホテル業界には、サービスを含め様々な知見が多く蓄積されている。しかし、そうした情報は粘着性が高く、他で用いることができない情報が多いようにも見受けられる。「渋谷から世界へ」をモットーに、渋谷らしいアイデアを創出し続けている渋谷ストリームエクセルホテル東急には、今後もこの取り組みにチャレンジして欲しいと思っている。
 
前回も感動したが、今回は「ボジョレー?」と解禁時にしか飲まない方々にこそ試して頂きたいし、酒類流通に関わる方々にも是非期間中に足を運んで頂きたい。そこで、今回の取り組みだけでなく、色んな相談や話も出来ると思う。そこから新しい取り組みや発想が生まれ、また酒類販売の可能性が広がるように思う。7月30 日(日)までと残り日が少ないが、企画という点でも、味わいサービスという点でも、新鮮な驚きがそこにはあるはずだ。
 

【「ブレンドワイン“サマーストリーム”」 概要】
■期 間:2023年6月14日(水)~7月30 日(日) 
■時 間:レストラン17:30~22:00(L.O.21:00) / バー17:30~23:00(L.O.22:00)
■場 所:渋⾕ストリームエクセルホテル東急 Bar & Dining 「TORRENT(トレント)」(4F)
※レストラン:月、火曜日ディナー休業/バー:日、月、火曜日休業
 

詳細は下記ご参照下さい
https://www.tokyuhotels.co.jp/stream-e/bar_dining/plan/103561/index.html


【参考文献】
横山斉理(2019)『小売構造ダイナミクス 消費市場の多様性と小売競争』有斐閣
三浦俊彦(2013)『日本の消費者はなぜタフなのか―日本的・現代的特性とマーケティング対応―』有斐閣
三浦俊彦(2021), 日本的消費者行動・日本的企業行動の特徴と歴史的源流 -個人の強さと組織の弱さ-, 企業研究(38), 3-24

担当:小川

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