マンハッタンのペントハウスでセレブを集めたシャンパンパーティと代官山に人知れず佇む古風な茶庵で濃茶を一服、さて、いずれが贅沢か……。
気分によってどちらも贅沢な時間ですね。前者は世界的に展開する高級ホテルチェーン、後者はテーラーメイドで隠れ家的な旅を演出するnook的なホテルみたいなものでしょうか。重要なのはそこに集う“人”ですね。もてなす側ももてなされる側も、そこに集う“人”の一部。ハードがいくら素晴らしくても、そこに集う人が洗練されていなくてはお話になりません。容姿的なところは人種の問題もあるでしょうから、さして気にはなりませんね。鼻が高いのがいい国もあれば、整形してでも低くしたい国もあるわけですから、容姿は“端麗”であれば好し、あとは文化を愛でる知識と品格の問題といったところでしょうか。知り合いに、朝食に行くのにもきちんとタイを締めて行くという方がいます。ヨーロッパの一流ホテルでは、客のそういうところを見るのだよ、とおっしゃる。さすがです。
片や、パリの超一流ホテルに娼婦を連れ込み、しっかりチェックされて後日、日本に連絡があり、以後、出入り禁止になった方もいらっしゃる。お金を持っていても下品ではいけません。そう、品格を持ち合わせていなくては。
Courtesy:Hotel Daniel
常々申していることですが、旅にはライフスタイルをエンジョイするほぼすべてが含まれています。まず、ファッション、交通手段、滞在するホテル、食事、ショッピングなどなど。昔、映画雑誌の編集長をしている時、映画にはあらゆるライフスタイルの要素が入っている、なんて同じようなことを言ってたのですが(笑)、旅はとても身近で自らの理想のライフスタイルを実現する手段ですね。
そして旅で最も長い時間を過ごすのがホテル。私、ホテルには経営者とそこで働く人々の「哲学」と「情熱」が最も大切だと考えます。いくら機械的なおもてなしをされてもまったく感動しませんね。
例えば、パリのHOTEL DANIEL( 8 Rue Frederic Bastial / hoteldanielparis.com )は、知る人ぞ知る秀逸なブティークホテルです。オテル・ド・クリヨンで働いていたマダムは、自分が思う理想のホテルをと、レストラン「アピシウス」の近く、静謐なるエリアにこじんまりとしたHOTEL DANIELを開業します。
部屋は19室、スイートが7室。ロビー階は18世紀のパリの雰囲気にアジアのテイストをミックスした、24時間のルームサービスも引き受けるティーサロン&ダイニング。ラデュレのマカロン、カイザーのクロワッサンが常時、用意されています。何より、マダムのホスピタリティが素晴らしい。お出迎えの時はマダム自ら部屋までゲストをご案内、諸々の説明をしてくれます。なにせマダムの理想は日本の温泉旅館の女将だそうで、ゲストがチェックアウトを済ませると、マダムは外までゲストの荷物を持ち、車が見えなくなるまで見送ってくれます。パリの散歩を楽しんだあと、ゆったりとリラックスできるティーサロンは、まさにパリの別邸。マダムと語らう寛ぎのアフタヌーンティーに思わずにんまりとしてしまいますね。
Courtesy:Hotel Daniel
オーナーの哲学がしっかりと馴染んでいるホテルでなくては「群れない贅沢」は望むべくもありません。リピーターになる価値はそこにあるといっても過言ではありません。GMからのウエルカムメッセージをすべて保管されている方もいらっしゃいますね。手書きの温かいメッセージは、それだけでホテルライフをわくわくとさせてくれるものです。そして、それなりのホテルでは、影武者のように付かず離れず完璧な世話をしてくれるバトラーとのコミュニケーションも大切です。そんなひとりでほくそ笑んでしまう素敵なホテルライフ、これからご一緒に楽しんで参りましょう。
中山清美 Kiyoharu Nakayama
1981年早稲田大学政治経済学部卒。「プレミア」(アシェット婦人画報社)、「ラピタ・プレミアム」(小学館)、「デパーチャーズ」(小学館/AMEX)などの編集長を経て、現在、不定期刊「ラグジュアリー・バイブル」発行人を務めると同時に、イタリアの豪華クルーザー「AZIMUT」、同じくイタリアの高級家具「B&B Italia」、アストン・マーティンなどのメディアコンサルティングも担当。著書に「アトランタ・ビーツ」(東洋経済新報社)、「超ピープルとの時間」(スタープレス)など。