けた違いのマーケットを持つ中国
中国での婚姻件数は年々増え続けており、ブライダルマーケットは22 億ドルと言われ、その規模は日本の3倍もあり、さらに毎年5%も伸びています。総人口では日本の10 倍ですが、婚姻人口では20 倍と言われています(図1)。このマーケットを取り込もうと、すでに進出している日本企業があります。
ノバレーゼは2010 年8 月、上海に創作和食レストランの出店で中国に進出しました。まず和食レストランで中国に進出したのは、当時の中国には本格的な和食を提供する店が少なく、ハードルが低かったからです。
このレストランは、上海市が文化的な価値から保存の対象とする築約100 年の歴史的建築物を借り上げて、レストランウエディングができるようにリノベーションしたものです。既存の物件をリノベーションすることで、土地使用権の取得や新規建築許可の面倒な手続きを簡素化し、投資コストを抑えて、海外進出時の大きなリスクの一つである不動産リスクを軽減しました。
そして同年9 月には、台湾のドレスメーカー「グリーンピジョングループ」が蘇州に出店した大型式場の運営に関するコンサルティング業務を開始しました。
同社は、比較的参入しやすいレストランの開業で進出したのち、日本で培ったノウハウを活用した式場・婚礼衣装店の受託運営につなげることで中国進出を果たしました。また、これらを布石として自社物件の結婚式場運営を展開する計画です。
ワタベウェディングの中国進出は1993 年2 月、上海にウエディングドレス製造子会社を設立したところから始まりました。その後、97 年10 月に挙式サービスを行なう子会社を同じく上海に設立。しかし、毎年大幅に値上がりする高額な賃料に加え、同業他社との価格競争が激化したため、成約数は順調に伸びているにもかかわらず利益は伸び悩みました。
転機が訪れたのは2004 年7 月、5ツ星ホテル「オークラ ガーデンホテル上海」への出店でした。既存の施設に入ることで物件取得の面倒がなく、初期費用とランニングコストが抑えられ、スピーディーかつ最小限のリスクで出店することができました。加えて、挙式の相談にホテルを訪れた富裕層を取り込むことによって、高付加価値を求める高単価の顧客をコンスタントに獲得できるようになりました。
さらに2007 年10 月にオープンした香港店では、海外挙式専門のサービスを始めました。グアム店に香港からの問い合わせが増加したからです。サービスを始めてみるとグアム以外にも、直行便があり海がきれいな沖縄や、ラベンダー畑が広がる北海道などの人気も高く、図らずもインバウンド効果も出てきました。
同社は、変化の激しい中国市場で富裕層にターゲットを絞ることで、日本式の高品質サービス型ブライダルを価格競争に陥ることなく提供する仕組みを確立して成功しています。
今回はマーケットの規模が大きく、そのうえ成長していて、まだまだ参入の余地が多い中国の事例を取り上げました。しかし、そのほかのアジア新興国でも、今後海外リゾートウエディングのニーズは増えてくるでしょう。
海外マーケット参入にあたって、宗教や風習の違い、法令関係の違い、テナント確保の難しさ、競合他社との競争など、さまざまな課題が出てくると思います。しかし、参入先がどこであれ、その国のことをしっかり調べて理解し、それらの課題をクリアすれば、長い年月をかけて洗練を重ねてきた「日本式ブライダル」のノウハウはどこで行なっても通用し、受け入れられる高い可能性を秘めているのではないかと思います。
次回はホテル業界についてお話しします。
古川 エドワード 英太郎
(ふるかわ エドワード えいたろう)
ストラテジック・デシジョン・イニシアティブ㈱
代表取締役兼CEO
〈プロフィール〉ストラテジック・デシジョン・イニシアティ
ブ㈱ (SDI:http://www.sdigrp.com/) 代表取締役兼CEO。香港生まれ。中学、高校はシンガポールのアメリカンスクールで過ごす。関西学院大学卒業。2002年にStrategic Decision Initiative(HK) Ltd. を創業し、中国でのリサーチ、マーケティング事業を開始。07年、ストラテジック・デシジョン・イニシアティブ㈱設立と共に拠点を東京に移す。Facebook:https://www.facebook.com/strategicdecisioninitiative