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とんがりホテル コンセプトが斬新な魅力宿 素粋居

とんがりホテル コンセプトが斬新な魅力宿 素粋居

【月刊HOTERES 2022年08月号】
2022年08月26日(金)
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湯の山 素粋居

----アクアイグニス創立後、素粋居を作ることになった経緯をお聞かせください
 
 単純な動機は、アクアイグニスのお宿はこの10年ずっと稼働率が90%以上あるため特にシーズン中や週末は来たくても泊まれないというお客さまのお声がすごく多く、増設したいなと思っていたことです。増設するにあたり、何かシンボルになるようなコンセプトのあるものにしたい思いがありました。菰野町のいい土地を手に入れることができたので、これまでにないもの、いわゆるブランドになるものを作りたいと今の素粋居に取り組むことになりました。

特にこだわったのが建物で、一棟ずつ全てのコンセプトが違う、素材が違うなんてなかなかないと思うんです。中の家具や照明もこだわったものが置いてありますし、(陶芸家・造形作家の)内田さんのご縁によって、現代の千利休と言われている千宗屋(せんそうおく)さんという方の茶座敷付きのお部屋もあります。あとはお食事もパリの一つ星レストラン「PAGES」の手島竜司さんと一緒になって作り上げた、薪焼きレストランの「H I N O M O R I」などがあります。私もシェフと一緒に街歩きのお店に何軒か行ってこういったレストランをやりたいねとなったのがきっかけです。こういった経緯や思いで作ったのが、素粋居です。

 

石をテーマにした「石砬(せきろう)」。地元で産出する菰野石こものいしの巨石が空間に鎮座している。居るだけで身体が浄化されていく空間
石をテーマにした「石砬(せきろう)」。地元で産出する菰野石こものいしの巨石が空間に鎮座している。居るだけで身体が浄化されていく空間

----内田さんとの出会いが大きいと思いますが、どのように意見をすり合わせていったのでしょうか
 
 内田さんはお住まいが四日市で今まで会えていなかったのですが、東京でデザイン技術、建築業界のことで色々な人にお会いする機会があり、こんなにすごい人が三重県にいるのに立花さん知らないんですかと知人に言われたんです。ご紹介していただいて三重県でお会いした時に嬉しかったのは、「実はアクアイグニスに行って、しょっちゅう泊まっているんだよ」と言っていただいて。そこですごく意気投合し、よく居酒屋に行ったりするようになりました(笑)。

こういうものを作りたいと話し合うこともあれば、落書きからじゃあこれでいこうと生まれるものもありました。他にあるのと同じではないこういう発想やコンセプトってすごく面白いなと思います。内田さんはすごく現場を重視されている方で、普段はほとんど海外にいるのですが、素粋居の建設中はコロナ禍で国内にいたので、ビッタリ現地にいていただくこととなりました。このことも素粋居ができたきっかけなのかなと思います。


 

「HINOMORI」の朝食。伊勢湾から届く魚の炭焼き、地元の生産者が育てたお米や野菜の味を最大限に引き出した、シンプルだけれど上質な朝食だ
「HINOMORI」の朝食。伊勢湾から届く魚の炭焼き、地元の生産者が育てたお米や野菜の味を最大限に引き出した、シンプルだけれど上質な朝食だ

----作る者としてのロマンの追求と、経営者としてソロバンを弾くことの塩梅はどのようにバランスをとっているのでしょうか。
 
 まず私自身建設業をやっていたということもあり、ソロバンの方で言うと素粋居は実は資金面の方ではゼネコンの前田建設さんも関わっていて、多くの資金を出していただいています。前田建設さんはすごく面白い会社で、脱ゼネコンと言ってたとえば空港の運営に携わったりだとか。そして今実は、この素粋居を福井県で作ろうとしているんです。

福井県の県庁から頼まれたことと前田建設さんの発祥の地が福井県ということで、現在一緒に計画しています。福井県にも蟹や魚などいろんな素材があるので、素粋居のデザインだけではなく、こういった地域の食材をテーマに、素粋居ブランドを全国に何箇所か作っていきたいと思っています。また我々は料理人が誰だとか、デザイナーが誰だとか、地域とのコラボレーションを企業や食材・人としていきたく、このことを素粋居展開にしていきたいと思っています。
 
----ターゲット、おすすめの過ごし方などはありますか
 
 ターゲットはやっぱりちょっと余裕のある方で、できればご夫婦やカップルでゆっくりしていただきたいです。とはいってもちょっと若い方やいろんな方に来ていただきたいですし、特にどこに来て欲しいとかはなくて、広くいろんな人に楽しんできていただければと思います。ただ少しお高いので、そこは頑張っていただきたいです(笑)。

おすすめの過ごし方は、まずは源泉掛け流しの温泉を楽しんでいただきたいです。実はなかなか源泉そのままのお湯で42、3度のお湯ってあんまりなく、夏はちょっと熱めで冬はちょっとぬるめなのですが、何度入っていただいてもいいですし本当に楽しんでゆっくりしていただきたい。お湯も庭もついているので、山を見たり川を見たりして、美味しいものを食べて、ゆっくり過ごしていただきたいと思います。部屋には素材のテーマに合わせた本もあるのでそれを読みながらお部屋でゆっくりしていただいたらいいなと思います。
 
----私たちも温泉や本も見てゆっくり過ごさせていただきました。「HINOMORI」のお料理もすごく美味しくて、料理人の方が自ら接客してくれるところがとても面白いですね。
 
 僕はそうするべきだと思っていて、接客はサービスの人、シェフは作るだけっていうのはお客さんの声も届かないですし。シェフも作って持っていってお客さんの表情を見たいだとか声を聞きたいだとか、お客さんも作ってくれた人が説明してくれた方がいいですよね。
 
----3つのレストランのうち、お蕎麦と鰻はそれぞれとのような経緯で選ばれたのでしょうか
 
 お蕎麦はやっぱり美味しいお蕎麦が欲しいという思いがありまして。いろいろな方を当たっていたところ、大阪でミシュランを取っている蕎麦屋さんの一番弟子が独立の場を探しているという情報をキャッチし、声をかけたのが蕎麦屋さんです。鰻屋さんは、私の知り合いが鰻屋さんの社長で、名古屋が本社の鰻の問屋をやっていて良い食材を出せるということで、そこにお願いして入っていただきました。
 
----福井県にも素粋居を作る計画があるとおっしゃっていましたが、今後の詳しい展望についてお聞かせください
 
 何かご縁があったりきっかけがあったりだと思うんですが、福井県は先ほどお話しした通り前田建設の創業地であることや県庁から頼まれたりなど色々なものが重なった結果で進んでいます。そういったきっかけがあれば、全国でやっていけたらいいなと。ただ素粋居はブランドを大事にしたいと思っているので、場所がどこでもいいということではなく、出会いとしてロケーションが素敵であるということ、そこのお料理や歴史があったり、意味や意義がある場所で取り組みたいと思っています。なので我々単独でというより、地域の方々とやると思っていいのかなと思います。

実は素粋居だけでなく、アクアイグニスも(2022年の)4月に仙台でオープンしたんです。なぜ仙台かというと、仙台市役所が土地を持っている藤塚という地区があるのですが、津波で全部流されてしまい、相当被害を受けてお亡くなりになった方もたくさんいて、そこに賑わいや復興のシンボルを作りたいということで地元のゼネコンさんとホテルを経営している会社さんから一緒になってやりたいと私たちにお声がかかりました。人とお金は地場の人たちがやるので、デザインとノウハウ、企画、運営をお手伝いをやって欲しいとのことで、アクアイグニスを仙台でやらせてもらうことになりました。素粋居もこのようなご縁があったりということが重なっていけば、考えていきたいなという感じです。

 

取材する立教大学観光学部の学生
取材する立教大学観光学部の学生

----最後に、立花社長が人生を通して成し遂げたいこととは
 
 野望とかがあるわけではなく、やりたいこと・やることがどんどん増えていくことで世の中のためになったらいいなと思っています。いいことをして色々な人に喜んでもらえるといいなとか。今回非常に広大な領土で「V I S O N」を作ったんですけど、お金儲けだけの事業じゃなくて、そこに歴史があったり思いがあったり社会に貢献できたりっていうことを考えてそういう事業をし、いいことをするみたいな。最期、死ぬときに、「いいことできたから、もうこれだったらいいだろう」と思えるような人生にしたいです。

 

【取材後記】
石や和紙、ガラスなどという素材が全面に押し出された部屋に足を踏み入れたとき、素材と空間が生み出す美しさに圧倒されとても気分が高揚した。こだわり抜かれたアンティークの家具や照明、部屋から望むことができる自然などによって生み出される居心地の良さに包まれることで、”特別な日常”を味わいながらゆっくりと滞在することができた。そして社長のお話からは菰野町という地域への愛情を感じると共に、今後各地に創られるであろう素粋居ではどのような地域とのつながりを感じることができるのかとても楽しみになった。(犬塚理亜)
 
素材とアートが融合した客室は自然と背筋が伸びるような非日常空間を作り出しており、大変居心地が良かった。そして、素粋居の自然に囲まれた立地とゆったりとした時の流れはゲストに「何もしない贅沢」を与える包容力を感じた。ターゲット層は定めていないとのことだったが、日常に追われる現代人なら誰しもがこの場所の豊かさの虜になり、また必ず訪れたいと思うに違いないと確信した。また、取材を通して立花社長をはじめ、素粋居で働くスタッフの方々がご自分のお仕事を心から楽しんでいらっしゃる様子が印象的で、この方々が手がけたVISON やアクアイグニスにも是非訪れてみたいと感じた。(菅野美月)

 

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