川端康成による『雪国』の冒頭、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった…」のフレーズは有名だが、このトンネルは、上越線の清水トンネルのことである。今では上越新幹線や関越自動車道のトンネルも開通して便利になったが、こうしたトンネルが貫く谷川連峰は、古くから関東と越後とを分け隔てるように聳え立っている。
その「国境」のすぐ手前に水上温泉郷が位置しており、その一つである谷川温泉に「別邸 仙寿庵」は存在する。もともとは「旅館たにがわ」という同じ谷川温泉にある旅館の別館という位置づけであったため「別邸」と冠されているが、今ではむしろ仙寿庵の方が世界的にも知名度のある施設になっている。
開業から20 年近くたった今も変わらぬクオリティと人気を誇る秘密に肉薄した。
徳江 わざわざお越しくださいましてありがとうございます。仙寿庵はきっと涼しいのではないかと思いますが、都心は暑いでしょう?
久保 さすがに8 月はそれなりに気温も上がりますが、それでも都心に比べればはるかに過ごしやすいですね。
徳江 私は先祖が群馬県出身で、自身も2008 年から2014 年まで、7 年間にわたって高崎経済大学で教壇に立っていたこともあり、群馬は身近なところでもあります。久保さんはずっと地元ですよね?
久保 高校、大学と、その後に東京で就職したとき以外はずっと地元ですね。
徳江 高崎もそうですが、谷川温泉も新幹線を使うと都心から1 時間少々で着いてしまいます。それなのに、あれほどの素晴らしい自然に囲まれた環境で、うらやましい限りです。
久保 この自然こそが、当館のなによりの魅力だと思っています。
徳江 確かにそうかもしれませんね。
久保 そもそも弊社は、1950 年代に私の祖父母が谷川温泉の旅館を買収したところからはじまります。1980 年代に立て替えたのですが、周辺に人家が増えるなどしたため、とことん静かなところに別館を作ろうというところから話がスタートしました。