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グレーゾーンの中での新オペレーション

強みが全部「三密」に。金沢彩の庭ホテルのパラダイムシフト

2020年06月05日(金)
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 悪立地で小規模など、さまざまなハンデを持って開業し、それを逆手に取ったオペレーションでトリップアドバイザーの「サービスで人気のホテル」日本一(2019年)、そして「朝食のおいしいホテル」でも上位の常連となった金沢彩の庭ホテル。ところが、新型コロナウィルスの影響でこれまで武器としていたものがすべて “三密” に。そうした中で、代表取締役社長 支配人の本郷一郎氏は新たなオペレーション構築に挑んでいます。(レポート 岩本 大輝)


強みが全部 “三密” に
これからどう戦えば良いのか

 
 金沢駅から車で10分の住宅街の中という悪立地、64室の、朝食しか出さないという三重苦のホテルでありながら、優れたオペレーションとホスピタリティーの仕組みを構築し、無名ながらも2019年にはトリップアドバイザーの「サービスで人気のホテル」において並み居る外資系ラグジュアリーホテルなども超えて日本一に輝いた金沢彩の庭ホテル。また、同ホテルは同じくトリップアドバイザーの「朝食のおいしいホテル」でも上位の常連でもあります。
 


その金沢彩の庭ホテルの強みは、
 
①「20分かけるチェックイン」などスタッフの “Face to Faceのおもてなし”

② 美しい庭園を眺めながら、百年伏流水と言われる地下水を利用した、柔らかな湯ざわりを楽しむことができる “湯屋”(浴場)

③ すべて手作り、徹底して能登産の食材、メニューにこだわった食材を好きなだけ楽しめるビュッフェ形式の “朝食” 

でした。
 
しかし、これらの強みは今の時代すべて “三密”。

 そのような中で、どのように戦えば良いのか、通常であれば窮してしまう状況です。しかし、同ホテル代表取締役社長 兼 支配人の本郷一郎さんがそこで立ち止まることはありませんでした。


金沢彩の庭ホテル 代表取締役社長 兼 支配人 本郷一郎さん


 まずはこの緊急事態を乗り越えるために着手した主要なアクションは以下二つでした。
 
アクション①
ローカル需要を取り入れろ

 
 コロナの話題が日本で騒がれ始めると、先の予約がどんどんキャンセルされ、先の稼働率が10パーセントを切る日も続々。予約が入らず一時的に休館にする日もあったそうです。そんな中で2月末にスタートしたのは「石川県民プラン」でした。
 通常、スタンダードルームでも2万5千円程度で販売している朝食付きプランを石川県在住者に限定して二人で1万円に。地元メディアなどで話題となり、多くはないものの予約が入り始めたそうです。
 そのアイデアは思いつき。「2月末から学校が休みになるということでしたので、行くところもないのではないか、という思いつきからゲリラ的に開始をしたのですが、思った以上の反響が得られました」と本郷さん。
 
 そこに手応えを得て、4月には富山・福井県在住者を対象に「お隣りさん県民プラン」を開始(5月には岐阜県にも拡大)。さらに、5月の連休明けには新幹線沿線の需要を狙って新幹線とツーショットの写真を提示すれば同額で泊まれる「【群馬・長野・新潟・富山在住、新幹線でお越しの方限定】新幹線とツーショット撮影でお得に」プランもJR側の理解を得て開始しました。
 本郷さんが「これまでと大きく変わり、車、新幹線で一時間圏内のお客様が8割のシェアを占めるまでになりました」と話すように、これまで地元需要が少なかった同ホテルだけに通常であれば休館を余儀なくされていたかもしれない状況でしたが、これらのプランのおかげでなんとか乗り切ろうというところまで来ています。
 


新幹線沿線をターゲットに、新幹線とツーショット写真を提示すれば割安で泊まれるプランも


アクション②
ビュッフェはできない。
それ以上の満足度が得られる朝食を

 
 稼働率が大幅にダウンしている中でしたが、金沢彩の庭ホテルでは4月25日までは可能な限りの対策をして朝食ビュッフェを提供していました。しかし、当然それを嫌がるゲストもいます。そのためそうしたゲストのために同ホテルでは洋食、朝食のセットメニューをそれぞれ開発。とはいえ、朝食で人気のホテルですから、ゲストの期待は裏切れない。見た目も、味も、ボリュームも、満足してもらえるものをということでスタッフとともに考えて提供。これも好評を得て、4月26日以降はこのセットメニューを提供し、ゲストに喜ばれています。
 


セットメニューの朝食(洋食)


今後のオペレーションは?
 
 まずは緊急対策で今を乗り切ろうとしている金沢彩の庭ホテルですが、まだ予断を許さないものの、今後は需要もある程度戻ってくるでしょう。その時に、どのようなオペレーションをするのでしょうか。
 
朝食は「ビュッフェ」ではなく「カフェテリア」に
 
 今後はビュッフェという言葉は使いづらい。それでも強みだった朝食をどのように復活させるのか? そこで、本郷さんは「カフェテリア」というスタイルで行こうと考えています。
 和食はすべて小鉢に分けて提供。洋食は大皿料理で提供せざるを得ないと判断。その代わり、マイトングを用意し、使用したお皿はすべて紙皿で廃棄。そのために、朝食用のトレーも小鉢が取りやすいように大ぶりなものをを購入、マイトングや紙皿なども買い揃えました。
 洋食の大皿料理での提供は、これまでのビュッフェスタイルと変わらず今の時代としてはチャレンジ。ただ、そこには理由があります。それは4月25日までビュッフェを継続している時に、ビュッフェ形式を避けてセットメニューを希望した人は5%弱。それだけ自分が取りたいものを自由に食べたいというニーズは強くあると考えるからです。

 
湯屋(浴場)は利用人数を制限
「ゆったりお入りいただけますよ」

 
 湯屋(浴場)も現時点では三密回避からクローズをしていますが、時期は未定ではあるものの、浴場の利用人数を15人程度に制限して再開する予定。客室から湯屋の混雑状況が分かるような仕組みなども検討をしています。
「多くの人が一度に入れはしませんが、言い換えてみれば湯屋を少ない人数で利用できるわけです。『ゆったりお入りいただけますよ』と」(本郷さん)
 

おもてなしが自慢のホテルが自動チェックイン機導入!?
 
「20分かけるチェックイン」というように、これまでスタッフとゲストのFace to Faceのおもてなしが売りであった同ホテルですが、自動チェックイン機の導入も考えているといいます。ゲストの中には、カードのやり取りなども避けたいという方がいるからです。

 しかし、これでは金沢彩の庭ホテルの強みが削がれてしまうのでは…?
 
「その通りです。しかし、それはお客さまが嫌がることだけを無くしていくためです。これまで通りのチェックインを好まれる方にはこれまで通りに、お客さまに価値のある滞在経験を提供するためです。
 このホテルは、開業時もハンデばかりのホテルでしたが、それをプラスにするという考え方でこれまでやってきました。今回も、コロナで私たちの強みをこれまで通り使えない環境になりました。スタッフにはパラダイムシフトしようと話をしています。今まで強みだった『Face to Faceのおもてなし』、『朝食』、『湯屋』を、これからの時代にどう形を変えていくか。皆で話し合いを継続しています。
こうしたリスクを起点にして、これまでの強みの残せるものを残しながら、さまざまな経験を糧にして、新しい体制を皆で作っていこうと思います。6月19日の県またぎの移動解禁を第一関門、7月17日を夏休みに向けての第二関門ととらえ、パラダイムシフトした “新たな通常営業” に戻すのが、金沢彩の庭ホテル版ロードマップです」(本郷さん)
 
 どこまでが許され、どこまでが許されないのか、正解のない時代で本郷さんを始めとした金沢彩の庭ホテルのチームはこれからまた新しい挑戦をしていきます。

 ただ、私、岩本が開業以来関わらせていただく中で思うのは、このホテルは、湯屋があったから、朝食があったからこれまでのような実績を築き上げることができたのではないということです。本郷さんを始めとして素晴らしいチームがあり、それが素晴らしい組織文化を生み出し、そのチームが結果として素晴らしい朝食やFace to Faceのおもてなしを実現できたのです。その、本質的な価値は変わっていません。逆を言えば、本郷さんが「ハンデをプラスに変えてきた」とおっしゃるように、こうした大変な経験を糧にして、さらに素晴らしいチームになっていく可能性すらあると、感じています。
 
 
※過去の同ホテルの取り組みにご興味ある方は過去のインタビューをご覧ください。
http://www.hoteresonline.com/articles/8332 (2020年3月6日号)
http://www.hoteresonline.com/articles/611 (2015年7月10日号)

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