Boost 社(日本ではBoost Japanで展開)はホスピタリティー業界でスマホアプリを通じた言語トレーニングや、動画などによるオペレーショントレーニングのサービスを提供している。同社は世界的に有名なローザンヌ・ホテルスクールと提携をしているほか、2019 年5 月にはザ・リッツ・カールトンの創始者として著名なホルスト・シュルツ氏をディレクター兼取締役会役員兼顧問に迎えることを公表した。人不足が日本だけでなく世界中で叫ばれる中で、モバイルトレーニングはホテルの価値向上のための重要な施策として注目を集めている。
モバイルトレーニングは
サービスエクセレンスのレベルを
高められる
ホスピタリティー業界でアプリを通じて言語トレーニングや動画などによるオペレーショントレーニングのサービスを提供するBoost は、日本ではローザンヌ・ホテルスクールとして知られるスイスのホスピタリティマネジメント大学Écolehôtelière de Lausanne と提携を公表し世間を驚かせたが、さらに2019 年5 月にはザ・リッツ・カールトンの創始者として著名なホルスト・シュルツ氏をディレクター兼取締役会役員兼顧問に迎えることを公表した。
世界トップクラスのラグジュアリーリゾートを築き上げた同氏がなぜ、アプリを通じたトレーニングに共感をしたのか? シュルツ氏はこのように語っている。
「ホテルの総支配人が社内に優れたサービスカルチャーを築きたければ、モバイルトレーニングが最適です。モバイルトレーニングは拡張性が高く、さまざまな地域や施設で働く数千人もの従業員に対して同時に共通研修教育を実施し、サービスエクセレンスのレベルを高めることができます。語学力やサービススキルが上がれば、従業員は自信を持って接客できるようになります。これこそがモバイルトレーニングの意義であり、私がBoost の製品の良さを確信する理由でもあります。Boost 社の一員として、モバイルがホスピタリティにもたらす可能性を解き放てることを大変光栄に思います」
4P でなく“5”P の時代
これからはPeopleに取り組む企業が強い
Boost の日本法人であるBoost Japanの代表取締役社長を務めるのは、元ホテリエであり、その後もホテル業界のデジタルマーケティング、レベニューマネジメントのプロフェッショナルの一人として活躍してきた吉崎夏来氏だ。
なぜ、デジタルマーケティングやレベニューマネジメントの専門家であった同氏が、ホテルの「サービス」というそれまでの同氏とは違う領域の事業に力を入れるのか?
「私はこれまでプライシングやレピュテーション、レベニューマネジメントといった仕事に10 年以上かかわって来ました。これらはマーケティングの第一人者であるフィリップ・コトラー氏が提唱した『4P:Product、Price、Place、Promotion』に関することです。しかし、アメリカでは10 年ほど前からこれに“People” を加えた『5P』という言葉が議論されています」
吉崎氏は講演で、「O2O:Online to Offline」というキーワードを提唱している。これは、どれだけオンライン(Online)で集客などの努力をして一度ゲストをホテルに訪れさせたとしても、現場のスタッフの対応やサービス(Offline)が不完全であればそのゲストはリピートしないというものだ。確かに、魅力的な広告露出などをしてゲストを惹きつけても、実際に訪れてイメージとの大きなかい離があったり、現場のサービスが不十分であればリピートをすることがないどころか、今の時代口コミサイトなどで悪い評価をつけられてしまう。
「今、ホテル業界では新規ホテルの開業があいつぐ中、多くのホテルで省人化や効率化を追求し、また、近年の人不足や働き方改革の風潮もあいまって、人が現場から追いやられているように感じています。5 年前にマイケル・オズボーン氏がAI に取って代わられる仕事というのを公表し、その中にホテルのフロントが入っていましたが、それが実際に現実になりつつあるように見えるのです」(吉崎氏、以下同)
“ 人不在” のホテルは民泊や
ほかのプレーヤーに勝てない
目下ホテルは今年から来年にかけてまさに開業ラッシュを迎えている。一方で、今年6 月にCBRE が公表した『2021 年のホテルマーケット展望 増加する需要と供給の中で勝ち残るホテル』では、2021 年には主要9 都市でそれぞれ必要とされる客室数よりもストック数が上回るというリサーチ結果が報告されている。さらに、ホテルの競合は登録されているホテルや旅館だけではない。ホステルは軒数はわかるもののベッド数の統計はなく、あわせて民泊(合法だけでなく未だ残っているともいわれる違法民泊)を加えれば、その市場での競争はさらに厳しいものとなる。
「今年日本に参入してきた『OYO(オヨ)』は国内大手のソフトバンクも出資をしていますが、その代表者が7 月に開催された『WiT JAPAN & NORTH ASIA 2019』において、月単位の民泊としての販売もするということと同時に、主に30 平米以上の部屋をターゲットとしていくと言っていました。人がほとんど不在の十数㎡〜二十数㎡ホテルが、彼らに勝てるでしょうか? さらに、数年後にはなるでしょうが5G が浸透すれば、客室の広さや雰囲気をVR によって確認できる時代となる可能性は大いにあります。そのような時代になれば、ホテルの選ばれ方も変化しているでしょうし、省人化、効率化のみを目指したホテルはより厳しい戦いを強いられることになります。
そのような時代の中で、付加価値であり差別化となるのは人であると私は考えます。これからは、人、People に取り組める企業が強いと私は考えています。
また、そのような話をすると、『研修で成長したスタッフが辞め転職してしまう』と躊躇するというチェーン幹部がいたりしますが、それはいかがなものでしょうか」
自らのスキル向上に取り組むことで
給与が上げられる時代に
今後さらに深刻度を増すであろう人材不足の時代を見据え、吉崎氏はこうも付け加える。
「現在、人材不足は主にハウスキーピングのスタッフの話題が中心ですが、今後働き手が減少していく中で、フロントやレストランのスタッフにおいても外国人スタッフが働くことが多くなるでしょう。そのような時代になれば、ホテリエたちが給与を上げたければ外国人管理職の中でも戦っていくことができなければならない時代になります。自らの語学力やスキル向上は自身の給与を上げるために必須な時代となるでしょう」
Boost 社サービスを
採用するホテルが続々増加中
Boost のサービスを採用するホスピタリティー企業がアジアを中心に世界中で増え続けている。特に日本では急成長を実現しており、今年第二四半期においては売り上げは対前年で30%の成長を見せ、世界中のBoost の中で過去最高記録を達成した。
「ホテルの企業研修制度の優劣はスタッフの定着率や離職率、さらには内定辞退率に影響を与えます。現在日本全国、大手チェーンから独立系ホテルまでさまざまな企業様より引き合いをいただいています。
現在は会話学習のほか、動画による客室清掃やバーテンディング、テーブルマネジメントのコンテンツの提供をしていますが、今後さらに提携先のローザンヌ・ホテルスクールの監修により研修提供の領域を広げていきます。
ただの“ 寝る場所” としてのホテルは今後も新規客室の供給が続く中で厳しい戦いを強いられることになります。ホテル企業として人の成長に取り組むことが必須と言えるでしょう」