そこで、ホテル購入が成功するように、いくつかの大切なポイントを挙げておきたい。
1. 高い利回り物件には要注意
アメリカのホテルの売値は利回りで決められる。どんなにいい場所に立つ豪華ホテルであろうと、収益が小さければ安い値段でしか売れない。また、利回りは4%~5%になるように設定されるので、5%を超える場合には、なにかしらの事情があることを理解しなければならない。その事情が「お金が必要なので早く売りたい」というものであるなら、ホテルそのものに問題はないので、“買い得物件”となる。一方、「ホテルの前に大きなビルが立つかもしれない。そうなると、眺めが悪くなり、これまでの値段で販売できなくなる。決定される前に、売ってしまいたい」というような場合には、あとから後悔する買い物となる可能性がある。決定されてもいない情報をあえて出し、買い手を惑わすようなことはしないので、購入者は知らないところで、こうしたリスクを背負うことになる。よって、“高い利回りはリスクを背負う”ということを理解しなければならない。ニューヨークの投資の世界では、”安かろう良かろう”は決して存在しない。
2. ホテルチェーンにより運営されているホテルには要注意
「現在、ホテルチェーンに運営されているが、近々、契約が切れるので、その後は、自社でオペレーションをする」という会社もある。ホテルチェーンとの契約が切れるということは、ホテルチェーンが保有するリピーターを失うということ。その後は、稼働率も単価も必ず下落する。それまで利回り5%だったところ、独立したとたんに4%以下となり、回復不能などという事態も起こりうる。殊に、大手ホテルチェーンが建てた宿泊特化型の2~3スタークラスのホテルには要注意。個性がないので、自社オペレーションでリピーターをつけることは至難。そして、リピーターをつけられない以上、単価を上げることもほぼ不可能。大手ホテルチェーン運営のホテルを購入する場合は、購入後もその体制を維持することを前提に考えることが大切。
3. ロケーションは選択の要素に入れないこと
ホテルの売値は収益がもとになって決められるため、「いい場所にあるホテルを買っておけば、将来、土地値があがりホテルの値もあがるだろう」という考えは的外れ。実際、マンハッタンにおいては、優れた成績を出しているホテルに、ロケーションによる優劣はほとんど見られない。場所は考慮せず、収益性だけに重点をおいて選ぶことが失敗を防ぐ選択。ただし、将来性を見ることがとても大切。例えば、ハドソンヤード周辺、あるいはワールドトレードセンター周辺は、近々、膨大な数のオフィスが入るので、当然、そこに出向く出張者の数は伸びる。今、その周辺にあるホテルを購入しておけば、数年後に大きな収益増となる可能性が高い。
4. ユニオンを頭ごなしに否定しないこと
自社運営をする会社は、“ユニオン”と聞くと、「そのホテルはやめておく」となることが多い。しかし、ユニオンがなければ、人材を確保できないという苦しさがある。ユニオンスタッフは長きにわたり働いているので、経験もある。一方、ユニオン以外のスタッフの多くは、1年も働かずに辞めて行く。採用には経費がかかる。慢性的に経験の浅い人材で運営するより、経験のあるユニオンスタッフに頼ったほうがいいこともある。また、ユニオン契約は、どのホテルも同じではなく、契約内容によっては、ホテルに多大なる利益をもたらしている場合もある。ユニオンホテルを購入するほうがいいことも多くある、ということを理解しておくべき。
5. 自社運営を行う場合の“買い得”となるホテルとは
自社運営を前提に、“買い得”となるホテルを選ぶなら、“個性があり、近頃オープンしたばかりのホテル”を見つけること。個性があれば、時間とともにリピーターが育ち、単価を高くすることが可能になる。また、近頃オープンしたことで、リピーターが育っていないため、まだ収益が低く、高値がつけられていない。リピーターの蓄積が数字に出てくるまでには時間がかかるので、オープンしてから2年以内なら、この恩恵を受けることができるだろう。さらに、新築にしろ、リノベーションをしてからの新ブランド化にしろ、建物、配管、ボイラー、電気系統などが新しくなっていれば、何年か先にやってくるリノベーションコストが安くすむ。これは大きな利点となる。